書評:大学のカルト対策(19)<第二部 2.カルトによるマインド・コントロール>


櫻井義秀、大畑昇編著の「大学のカルト対策」の書評の19回目です。この本の第二部の二番目の記事は、「2.カルトによるマインド・コントロール」というタイトルで、脱会カウンセラーの一人であるパスカル・ズィーヴィー氏が担当しています。

 
このブログの以前のシリーズで、「青春を返せ」裁判と日本における強制改宗の関係について説明したことがありました。そこでは、札幌における「青春を返せ」裁判の21名の原告たちが法廷で証言した内容に基づいて、彼女たちの大部分が統一教会を脱会する際に物理的な拘束を受けていたことを説明しました。そして原告の全員が、その際に家族以外の第三者の介入があったことを認めているのですが、パスカル・ズィーヴィー氏はなんと21名中16名の証言に登場する「最多出演賞」の脱会カウンセラーなのです。このように、札幌の「青春を返せ」訴訟と彼の「救出カウンセリング」の間には、強い関連性が認められます。

 
居住地が同じ札幌ということもあり、この本に登場する櫻井義秀氏、郷路征記弁護士、そしてパスカル・ズィーヴィー氏は日頃から協力関係にあると見て間違いないでしょう。北海道大学が、大学の「カルト対策」の北の最前線となるためには、十分すぎるほどの人材が地元に揃っていることになります。

 
パスカル・ズィーヴィー氏は「マインド・コントロール研究所」所長という肩書きを持っています。自身の著書『マインド・コントロールからの脱出』(恒友出版:1995年)の著者紹介によると、彼は札幌のアジア聖書学校に学んだフランス出身のクリスチャンで、現在は日本イエス・キリスト教団羊が丘教会のメンバーと記されています。原告らの証言によれば、彼は「脱会カウンセリング」の中で、原理講論と聖書の違い、原理講論の聖書の引用の仕方の間違い、あるいは統一原理そのものの矛盾や間違いなどについて語ったとされています。

 
原告らの証言で特筆すべきことは、彼から説得を受けた16名の原告のうち、5人は文字通り自分が監禁されていたことを認める証言をしており、7名は「監禁」という表現こそ認めていませんが、部屋には鍵がかけられており、出入りが自由でなかったことを認める証言をしているということです。このように、拘束状態にある統一教会信者の部屋を訪れて、脱会説得を行ってきた人物が、まさにパスカル・ズィーヴィー氏なのです。このような人権侵害を行う人物をパネリストに迎えること自体が問題と言えるでしょう。

 
さて、この本に出てくるパスカル・ズィーヴィー氏の話は、他の記事との重複が多くてあまり新しい内容はなく、ほとんど得るものはありません。ひとことで言えばつまらない内容ということになるでしょう。

 
彼によると、日本にはミニ・カルトがたくさん出てきたらしく、最近はキリスト教的なカルト・グループに関する相談が彼のところにどんどん寄せられているとのことです。具体的には「摂理」の勧誘パターンを紹介するのですが、本屋の宗教やスピリチュアル(精神世界)のコーナーで、ひとりで本を読んでいる人に声をかけて仲良くなり、「スポーツを一緒にしませんか」と誘い、そのうちに「スポーツだけでなく、話し合いもしましょう」と言って聖書研究会に誘い、「摂理」の教義の埋め込んでいく、というような内容です。

 
彼の話の中で敢えて関心を引くものを上げれば、フランスにおけるセクト対策の話でしょう。彼は、フランスではカルトに入ってしまった子供の両親によって、人々をカルトから守るためにADFIという団体が作られたと説明します。ADFIというのは、フランス語で “Association pour la Defense des valeurs Familiales et de l’Individu” の頭文字を取ったもので、「家庭と個人の価値を守る協会」というような意味になります。

 
また、数年前にフランスの政府も、Miviludes(ミヴィルデゥ)というカルト対策の機関を設立したとのことです。Miviludesは、やはりフランス語で “Mission interministerielle de vigilance et de lutte contre les derives sectaires” の頭文字を取ったもので、「カルトの常軌を逸した行動と戦い監視する省庁間ミッション」という意味になります。この二つの組織は、どちらもカルトから未成年者を守るための小冊子やガイドブックを発行しているらしく、その冊子の表紙の写真が紹介されています。

 
Miviludesの方は、日本語版のWikepediaにも以下のような解説記事が載っています。
「Miviludesは、フランスの政府機関で、以下の職務を担っている。
・公的な秩序やフランス法を侵犯する脅威を作り出すと認められる活動を監視、分析する
・適切な対処を調整する
・潜在的なリスクを公共に知らせる
・被害者が支援を受けられるように手伝う
Miviludesの使命は、『人の権利と基本的な自由を侮辱し行動するカルト的な特徴を持つ、または公共の秩序に対する脅威を構成する、または法律や法規・条令の反対を行く活動が起こす現象』を分析することを含む。」

 
フランスは、1996年に『フランスのセクト』と題した報告書が発表されたり、2001年に「人権及び基本的自由を侵害するセクト的運動の防止及び取締りを強化する2001年6月12日の法律」が制定されたこともあり、日本の反カルト勢力からカルト対策の先進国とみなされているようです。

 
この記事の最後に、パスカル・ズィーヴィー氏による「カルト対策講義」を受講した学生の感想文が紹介されています。大学主催のオリエンテーション等で彼の話を聞いた若い学生たちが、彼の話に感化された様子が伺えます。櫻井義秀氏、山口貴士氏、大和谷厚氏などが大学で「カルト対策」の話をしているという情報は入っていましたが、パスカル・ズィーヴィー氏もこうした講演を行っていることは、この本を通して初めて明らかになりました。今後、彼の動向も注視していく必要があるでしょう。

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