シリーズ「人類はどのようにして信教の自由を勝ち取ったか?」第1回


このブログのテーマは「洗脳」や「マインドコントロール」といった概念の虚構性と非科学性を暴くことにあるが、それは同時に「信教の自由」を守るための戦いでもある。

1月28日に東京地裁前で勝訴の報告をする後藤徹さん

1月28日に東京地裁前で勝訴の報告をする後藤徹さん

後藤徹さんに対する拉致監禁事件の民事訴訟の勝訴(1月28日、東京地裁)、佐賀大学による統一教会信者の学生に対する宗教迫害事件の民事訴訟の勝訴(4月25日、佐賀地裁)など、今年は信教の自由に対する侵害を不法行為として断罪した判決が二つ続いて下された、画期的な年となった。日本の司法判断にもまだ良識があったことを示した一方で、いずれの判決も賠償額は被害に比較してかなり低く、日本における人権の値段を思い知らされる結果となった。一般に日本の司法判断においては、「精神的被害」に対する賠償額は欧米諸国に比べてかなり低いのであるが、これは「内面の自由」や「良心の自由」に対する日本人の意識や価値観がまだまだ低いことを物語っている。

「内面の自由」や「良心の自由」の中核をなすものが「信教の自由」であるわけだが、どうも日本人は「信教の自由」が何ものにも代えがたい大切なものであるという実感に乏しいようだ。拉致監禁強制改宗という信教の自由に対するあからさまな侵害や、国立大学による白昼堂々の宗教迫害がまかり通っているのは、「信教の自由」が侵害され、失われることに対する危機意識の欠如を示している。もし自分がそれを侵害される立場に立ち、救済措置が働かなくなった場合、どのような恐ろしい世の中になるかを想像したことがないのであろう。

4月25日佐賀大学裁判の結果を報道する佐賀テレビのニュース番組

4月25日佐賀大学裁判の結果を報道する佐賀テレビのニュース番組

こうしたことは、歴史から学ぶしかない。本来、日本のキリスト教徒たちは、自身の受けた迫害のゆえに、信教の自由を守る戦いの先頭に立つべき歴史的背景を持っているが、そのキリスト教の牧師が拉致監禁・強制改宗を主導しているというところに、歴史の皮肉とも悲劇とも取れる闇が潜んでいる。もちろん、拉致監禁・強制改宗を主導しているのは一部の牧師に過ぎないが、それを知りつつも、見て見ぬふりをして声をあげない大多数のキリスト教牧師たちも同罪である。

そこで今回からシリーズで、日本のキリスト教牧師による人権と信教の自由に対する侵害を批判する意味を込めて、「人類はどのようにして信教の自由を勝ち取ったか?」に関する論述をアップすることにする。きょうはその第一回目である。

1.序論

統一教会の信者を拉致監禁し、棄教を強要する活動を行っている者の中には、多くのキリスト教牧師が含まれている。とりわけ、信者の信仰を破壊する上での教義的・神学的説得や論争は、キリスト教の牧師たちによってなされることが多い。こうした明らかな信教の自由と基本的人権の侵害に、キリスト教の牧師たちが手を染めているということは、キリスト教の歴史と伝統に反する、矛盾した行為である。

今日、信教の自由と基本的人権の尊重は、民主主義の根幹をなす普遍的価値として広く世界的に保護されている。しかし、これらの価値が出現したのは近代になってからであり、それが社会に定着したのは、長い時間と多くの苦難を経たのちであった。そして、近代社会の基本原則ともいうべきこの価値を生み出したのは、イスラム教文化圏でもなく、仏教文化圏でもなく、ヒンドゥー教文化圏でもなく、キリスト教文化圏であった。

その意味で、キリスト教は人権思想の揺籃として役割を果たしたのであり、今日においても、人権状況において模範的な国はキリスト教を文化的背景とする国が多い。これはキリスト教の根本思想の中に人権思想の根拠となる教えがあるからであり、またキリスト教自体が「信教の自由」や「基本的人権」という思想を確立し、また受容していく上で多くの試行錯誤と苦しみを経験し、多くの失敗の中から学んできたからにほかならない。

キリスト教徒たるもの、ましてや牧師たるものは、こうしたキリスト教の歴史に深く学び、「信教の自由」や「基本的人権」の価値をその胸に深く刻み込まなければならない。もしそれができたならば、自己の信仰とは異なるという理由によって、他者を拉致監禁し、強制的にその信仰を棄てさせようとするような行為が、人類が過去に犯してきた数多くの蛮行・愚行の繰り返しであることを悟るであろう。
そこで本稿においては、人権思想の出現においてキリスト教が果たした役割を論じた上で、信教の自由という概念を確立し、社会に定着させる上でキリスト教社会が通過してきた苦しみを振り返ることを通して、この二つの価値観を守る意義について考察したい。

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