アイリーン・バーカー博士の著作『ムーニーの成り立ち』の日本語訳アップのお知らせ


次回より、イギリスの宗教社会学者アイリーン・バーカー博士が1984年に出した統一教会についての社会学的研究書である“The Making of A Moonie: Brainwashing or Choice?(ムーニーの成り立ち:洗脳か選択か?)“の日本語訳をアップしていくことにします。この著作は、1970年代のイギリス統一教会を中心に、当時「洗脳」という批判を浴びていた統一教会に対して、参与観察とインタビューによる徹底的な社会学的調査を行い、「洗脳」の噂が真実であるかどうかを確認した野心的な研究です。

結論として「洗脳」の非難を明確に否定したこの著作は、統一教会のみならず、新宗教に対する客観的研究として最も評価の高い作品となっています。現在は統一教会に批判的な立場を取っている日本の宗教社会学者である櫻井義秀氏(北海道大学教授)も、著書『統一教会:日本宣教の戦略と韓日祝福』の中で、「宗教社会学において古典の地位を占める」「調査は社会学的調査として周到」と述べ、その研究方法の緻密さに関しては認めざるを得ないほどの優れた研究です。

アイリーン・バーカー博士の著作『ムーニーの成り立ち』は、「洗脳」や「マインド・コントロール」といった統一教会に対する批判を、科学的な方法論に基づいた調査によって明確に否定した研究であるため、米国における「洗脳論争」「ディプログラミング論争」において反カルト派の主張を論駁し、裁判闘争で勝利を収める上で重要な役割を果たしました。しかしながら、日本ではこの優れた研究が翻訳されて出版されておらず、その中心的な主張やデータの一部が引用されて紹介されているに過ぎません。

この著作の全文を翻訳して世に出したいというのは、私が長年にわたって抱いてきた希望でした。しかし、1984年に出版されたこの本が、現時点で日本の出版社から発行される可能性はほぼないと言って良いでしょう。商業ベースで、この本の翻訳と出版が経済的にペイするとは思えないからです。そこで私は、一つの「文化事業」として、自分のブログで「魚谷訳」を発表していくことにしたのです。

しかし、いかにブログに掲載する「個人訳」とは言え、著作権の問題もありますので無許可で行うわけにはいきません。さいわい、私はアイリーン・バーカー博士と個人的な面識があり、特に最近は年に一回以上のペースで会ってきました。

私がバーカー博士に初めて会ったのは、2000年に宗教ジャーナリストの室生忠氏が彼女にインタビューしたときで、私は両者の通訳を務めました。このインタビューの内容は月刊誌『創』に掲載されました。

2013年6月、スウェーデンで行われたCESNUR国際会議でアイリーン・バーカー博士と記念撮影する筆者

2013年6月、スウェーデンで行われたCESNUR国際会議でアイリーン・バーカー博士と記念撮影する筆者

それから10年後の2010年にアメリカのニュージャージーで行われた国際カルト研究協会(ICSA)に私が参加したときが、2回目の出会いになります。それ以降、ICSAと新宗教研究センター(CESNUR)の会議に毎年のように参加することになった私は、その度にバーカー博士と会話を交わすことになります。会議における私のプレゼンの際に司会を担当してくれたこともありました。

2013年6月21~24日にかけてスウェーデンの地方都市ファールンで開催されたCESNURの国際会議の際に、私はバーカー博士に直接交渉し、是非『ムーニーの成り立ち』の日本語訳を私の個人ブログに掲載することを許可して欲しいと申し出ました。バーカー博士は、その時には即答しませんでした。理由は、出版社のBasil Blackwell Publisher Ltdが著作権を保有しているかもしれないので、自分の一存では決められず、出版社に問い合せてみるということでした。

後日、e-mailで連絡が来て、1984年に出版された『ムーニーの成り立ち』の著作権はバーカー博士自身にあることが判明しました。そこで、バーカー博士は英語版の著作権を自分が保持した上で、日本語訳に関しては、商業目的で使用しないことを条件に、魚谷の個人ブログで日本語訳を公開することを許可することを伝えてきました。もし、どこかの出版社から日本語訳が出ることになったときは、著作権保持者である自分に改めて相談して欲しいという意味です。

かくして、晴れて「魚谷訳」の『ムーニーの成り立ち』を、このブログで発表することが可能になりました。科学的・実証的な統一教会の研究は日本に存在しないため、研究方法はかくあるべきという模範として、世に問う価値はあると思っています。

今回は「アップのお知らせ」なので、原本の目次の日本語訳とページ数を示すにとどめ、内容の日本語訳のアップは次回以降に譲りたいと思います。

謝辞

序                                                         p.1-11

1章 接近の手段と情報収集                  p.12-37

2章 統一教会:歴史的背景                  p.38-69

3章 統一教会の信条                           p.70-93

4章 ムーニーと会う                           p.94-120

5章 選択か洗脳か                              p.121-148

6章 修練会に対する反応                     p.149-172

7章 環境支配、詐欺、「愛の爆弾」      p.173-188

8章 被暗示性                                    p.189-204

9章 感受性                                       p.205-231

10章 結論                                         p.232-259

脚注と参考文献                                    p.260-299

索引                                                   p.300-305

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