米国対フィッシュマン判決


アメリカにおいて「新宗教団体がメンバーにマインド・コントロールを行った」と主張して、新宗教団体を相手取って訴訟を起こす戦略は、1980年代終わりまで反カルト団体の常套手段であった。しかし、こうした訴訟は,アメリカ合衆国対フィッシュマン(1990年)の裁判をもって、事実上の終止符が打たれた。

この裁判では、反カルト側の2名の主要な専門家が,重窃盗罪に問われていたスティーブン・フィッシュマンがマインド・コントロールの影響下で行動したと証言しようとしていた。彼らはサイエントロジー教会が,フィッシュマンが脱会して数年たった後もマインド・コントロールを続けていたと主張した。北カリフォルニア連邦地方裁判所のD. ローウェル・ジェンセン判事は1990年に画期的な判決を出し,2名の専門家が科学界で合意された意見を代弁していないことを理由に,彼らの洗脳またはマインド・コントロールに関する証言を認めない判断を下した。

この2人の専門家とは、マーガレット・シンガー博士とリチャード・オフシェ博士のことである。彼らはこの判決以降、米国の裁判で「洗脳」や「マインド・コントロール」に関する専門家として発言できなくなった。この画期的な判決について、これまでこのブログではごく簡単にしか触れてこなかったので、第一次資料として、今回は判決文全訳を掲載することにする。英語の判決文の日本語訳だけに読みにくいのは否定できないが、この問題に関心のある方に対しては価値ある資料と思われる。

 

<以下、判決文である>

「米国」原告、

ステファン・フィッシュマン、被告

No. CR-88-0616 DLJ.

連邦地方裁判所、カリフォルニア北地区

1990年4月13日

被告は郵便を使っての詐欺罪のかどで告訴された。特定の専門家による証言を排除するようにという政府の申請に対して、地方裁判所とジェンセン判事は、宗教的カルトによる強制的説得の実践に関する精神衛生専門家の理論は、自分が宗教的カルトによって洗脳されたという被告の理論の証拠として認容されるほど十分に科学界において確立されていない、と判定した。

申請は一部認められ、一部否定された。

[1]刑法479
110k479
精神衛生の専門家による証言が認容されるためには、その証言が資格のある専門家による、適切な主題に関するものであり、一般的に受け入れられた説明理論に準ずるものであり、それが偏見をいだかせる効果にまさる証拠としての価値を有していなければならない。その証言の提出者は、証言を支える科学的な論拠と信憑性を示すための適切な基礎固めをするという責任を負う。 連邦証拠法規則702、注釈付合衆国法律集28章

[1]刑法480
110k480
精神衛生の専門家による証言が認容されるためには、その証言が資格のある専門家による、適切な主題に関するものであり、一般的に受け入れられた説明理論に準ずるものであり、それが偏見をいだかせる効果にまさる証拠としての価値を有していなければならない。その証言の提出者は、証言を支える科学的な論拠と信憑性を示すための適切な基礎固めをするという責任を負う。 連邦証拠法規則702、注釈付合衆国法律集28章

[1]刑法486(6)
110k486(6)
精神衛生の専門家による証言が認容されるためには、その証言が資格のある専門家による、適切な主題に関するものであり、一般的に受け入れられた説明理論に準ずるものであり、それが偏見をいだかせる効果にまさる証拠としての価値を有していなければならない。その証言の提出者は、証言を支える科学的な論拠と信憑性を示すための適切な基礎固めをするという責任を負う。 連邦証拠法規則702、注釈付合衆国法律集28章

[2]刑法486(6)
110k486(6)
刑事事件における被告人の精神の正常性という問題に関する専門家の証言を認容するという目的のもとでは、ただ単に有名な医学の参考文献に好意的な記載が存在するというだけでは、その精神衛生の専門家の理論が同等の学者たちの間で一般的に受け入れられていると判断することはできない。学界における支配的な見解のより重要なバロメーターとなるのは、米国心理学会や米国社会学会などの専門家組織が取っている立場である。 連邦証拠法規則702、注釈付合衆国法律集28章

[3]刑法486(6)
110k486(6)
宗教的カルトの強制的説得活動に関する精神衛生専門家の理論は、自分が宗教的カルトによって洗脳されたという郵便詐欺事件の被告の理論の証拠として認容されるほど十分に科学界において確立されていない。被告は提出された証言の科学的根拠、信憑性、および一般的容認を立証する責任を負うが、ひいきめに見ても、証拠は物理的力を伴わない説得技術によって個人の自由意思が支配され得るという理論の妥当性について意見の一致があったかどうかに関して、専門家の意見が一致していないことを立証した。 連邦証拠法規則702、注釈付合衆国法律集28章

[4]刑法48
110k48
連邦犯罪に対する精神錯乱の抗弁を主張している被告は、明確で説得力のある証拠により、彼が起訴されている罪を犯したときには深刻な精神的疾患または欠陥で苦しんでいたのであり、彼の精神的疾患または欠陥が、自分の行動の性格や質、あるいは不法性を判断する能力を妨げていたことを立証する責任を負う。 注釈付合衆国法律集18章17節

[4]刑法570(2)
110k570(2)
連邦犯罪に対する精神錯乱の抗弁を主張している被告は、明確で説得力のある証拠により、彼が起訴されている罪を犯したときには深刻な精神的疾患または欠陥で苦しんでいたのであり、彼の精神的疾患または欠陥が、自分の行動の性格や質、あるいは不法性を判断する能力を妨げていたことを立証する責任を負う。 注釈付合衆国法律集18章17節

[5]刑法474
110k474
郵便詐欺事件の被告の審査と、被告が起訴されている犯罪を犯したときの精神状態についての意見に関する法廷心理学者の証言は、被告の法的精神錯乱の主張に関連している限りにおいて認容された。 連邦証拠法規則702、注釈付合衆国法律集28章

[6]刑法46
110k46
「減少した能力」(diminished capacity)の抗弁は、被告は必要な犯意を有していなかったので、起訴された犯罪を犯さなかったという主張を裏付けるために、被告によって導入された証拠を示す呼び名に過ぎない。
その他の法的解釈や定義については、出版物「Words and Phrases」を見よ。

[7]刑法486(6)
110k486(6)
宗教的カルトにおける強制的説得を含んだ精神医学的理論は、学界で一般的に受け入れられておらず、したがって郵便詐欺事件の被告による減少した能力の抗弁を裏付けるためにも認容されなかった。 連邦証拠法規則702、注釈付合衆国法律集28章

[8]刑法354
110k354
思想改造に関する課目を教えているが、法廷精神医学や法廷心理学についての専門的知識を持たない社会学教授は、宗教的カルトによって洗脳されたという郵便詐欺事件の被告の主張を裏付けるために証言することはできなかった。一般的に宗教組織がいかなる影響技術を用いるかに関する提供された証言は、訴訟に関連がなく、教授は組織のメンバーの結果的な精神状態一般についても、被告の精神状態についても診察する資格がなかった。 連邦証拠法規則702、注釈付合衆国法律集28章

[8]刑法479
110k479
思想改造に関する課目を教えているが、法廷精神医学や法廷心理学についての専門的知識を持たない社会学教授は、宗教的カルトによって洗脳されたという郵便詐欺事件の被告の主張を裏付けるために証言することはできなかった。一般的に宗教組織がいかなる影響技術を用いるかに関する提供された証言は、訴訟に関連がなく、教授は組織のメンバーの結果的な精神状態一般についても、被告の精神状態についても診察する資格がなかった。 連邦証拠法規則702、注釈付合衆国法律集28章

原告の弁護に、ロバート・L・ドンデロ米国代理人補、カリフォルニア州北地区、カリフォルニア州サンフランシスコ。

被告の弁護に、マーク・S・ヌリクとヌリク&カイル弁護士事務所、フロリダ州マイアミ

意見の覚え書(Memorandum Opinion)

ジェンセン地方判事

1989年12月27日に、本法廷は、被告によって提供された特定の専門家の証言を排除するようにという政府の申請を審理した。米国代理人補ロバート・ドンデロは政府の弁護のために出廷した。マーク・ヌリクは被告の弁護のために出廷した。審理の後、訴訟当事者たちは追加報告書を提出し、法廷はそれを受け取って審理した。以下のすべての理由により、法廷は政府の申請の一部を認め、一部を否定する。

I.背景となる事実

1988年9月23日、米国はステファン・フィッシュマンを11件の郵便詐欺、合衆国法典18章1341節違反で起訴した。起訴状は、フィッシュマン氏が株主集団訴訟に関連して、詐欺的に和解金と有価証券を得ることにより、カリフォルニア北地区裁判所を含むさまざまな連邦地方裁判所を騙したと告訴している。この詐欺は、訴えによれば1983年9月から1988年5月までの長期間にわたって行われたという。
彼の起訴の二カ月後、被告は連邦刑事訴訟法の規則12.2に従って、本法廷に精神錯乱の抗弁を通知した。被告は精神錯乱の抗弁の中で、サイエントロジー教会(「教会」)によって彼に施された影響を与えるテクニックあるいは洗脳が、訴えられている罪を犯したときの彼の精神状態の原因であったという証拠を示そうと試みている。被告は自分が1979年から教会のメンバーであったと主張する。彼の抗弁の洗脳の側面を強化するため、フィッシュマン氏は二人の専門家の証人、マーガレット・シンガー博士とリチャード・オフシェ博士を呼ぼうと試みている。現在、法廷で審理されているのは、これら二人の証人の証言を排除するよう求める政府の申請である。

A.提出された証言

マーガレット・シンガー博士は有名で高く評価された法廷心理学者である。彼女は起訴の少し後にステファン・フィッシュマン氏の精神状態を評価した。この評価に基づいてある心理学的意見と準備的な結論を形成し、シンガー博士は、被告が申し立てられている詐欺を犯したときの妄想的な世界観は、彼が法的に精神錯乱状態にあったという彼女の意見を裏付けるものである、と証言することが期待されている。

自身の心理学的訓練に基づき、シンガー博士は被告は途方もないほどに暗示を受けやすく、衝動的で、強迫観念にとりつかれていると証言することが期待されている。彼女はさらにこの暗示を受けやすい性質は、彼の特異な行動や奇妙な論理展開と同様に、長期間にわたるものであると信じている。このようにシンガー博士は、サイエントロジー教会と接触するようになる以前の被告を、奇妙で風変わりな人物と特徴付けている。シンガー博士はまた、被告はサイエントロジー教会に加入するに当たって、強烈な暗示の手段や、その他の社会的・行動的な影響過程を受けさせられたと証言することが期待されている。シンガー博士の意見よれば、教会の影響技術とフィッシュマン氏の以前の心理学的状況が結合することにより、彼の精神状態は極端に転倒した論理展開および判断の段階へと発展するようになったという。被告はもう一つの現実を作りだし、そして少なくとも5年間はこの精神状態で暮らした。シンガー博士は、被告は明るく、強迫的で、多くの面において有能であるが、この期間における彼の現実に対する全体的な視野は妄想的であった、と結論する。

リチャード・オフシェ博士は社会学の博士号を有する社会心理学者である。被告はオフシェ博士は精神衛生の専門家ではなく、したがって被告が起訴されている罪を犯したときの精神状態に関して証言できないことを認める。むしろ、被告はオフシェ博士を、その専門的知見によって、被告がサイエントロジー教会のメンバーによって施された強制的影響力と行動支配の統合されたプログラムを描写することができる人物として提出する。オフシェ博士は、ある社会的影響変数をコントロールすることによって、サイエントロジーは人に自分が超人的な力を得て現在をそれを利用することができると信じさせることができる、という意見を証言するであろう。オフシェ博士によって提出された意見は、教会の影響過程は常に人々を自分が精神的な事柄、エネルギー、時間と空間をコントロールする力を持っていると信じるに至らせる、というものである。

特に被告の件に関して、オフシェ博士は、被告は長期にわたる組織的な影響プログラムのターゲットであったのであり、それはサイエントロジーの詐欺計画に参加することは非難されるべき行為ではないとフィッシュマン氏に信じさせるように計画されていた、と信じている。オフシェ博士はさらに、被告が勧誘されてから10年近くにわたって教会は彼を操り、組織による詐欺の計画を促進するよう慎重に彼の一歩一歩を監視したという意見を述べている。オフシェ博士は最終的に、申し立てられている集団訴訟詐欺計画におけるフィッシュマン氏の役割は売り子や身代わりも同然である、という結論を提示している。

B.証言を排除しようとする政府の申請

政府は異なる三つの根拠に基づいて、シンガー博士とオフシェ博士の専門家としての証言が許容されるべきでないと主張する。第一に、政府はシンガー博士とオフシェ博士が信奉している思想改造に関する理論が、適切な科学界において一般的に受け入れられていないと主張する。第二に、精神錯乱の抗弁に関する1984年の改正法によってそのような証拠のために確立されたパラメーターに基づく妥当性の根拠に基づき、法廷はシンガー博士とオフシェ博士の証言を排除すべきである、と政府は主張する。政府はまた、思想構造とサイエントロジーに関する証言は本件訴訟においては不適切であると主張する。なぜなら、事実に基づく記録は、被告が1986年まではサイエントロジーに入会していなかったことを立証しており、このとき彼は既に起訴されている罪のほとんどを犯していたからである。第三に、オフシェ博士は本件訴訟において専門家として証言する資格がないので、政府は彼の証言を排除するよう法廷に要求する。

II.適用できる法的基準

[1]専門家による証言を容認すべきか否かは、連邦証拠法の規則702によって支配されている。この規則に従えば、提出された専門家は「事実審査官が証拠を理解したり、争点となっている事実を裁定する」のを助けるような専門的な知識を持たなければならない。連邦証拠法の規則702。規則702を解釈し、精神衛生の専門家による証言を容認すべきかどうかを決定するために、本法廷は「フライ対合衆国」293 F. 1013(D.C.Cir.1923)および「米国対アマラル」488 F.2d 1148 (9th Cir.1973)によって述べられた原理を適用する。「アマラル」は専門家の証言が(1)資格のある専門家によるものであり、(2)適切な主題に関するものであり、(3)一般的に受け入れられた説明理論に準ずるものであり、そして(4)それが偏見をいだかせる効果にまさる証拠としての価値を持っていること——を要求する。(Id. at 1153) 「米国対クリストフェ」833 F.2d 1296, 1299 (9th Cir.1987)も参照。専門家による証言の提出者は、証言を支える科学的な論拠と信憑性を示すための適切な基礎固めをするという責任を負う。「米国対グヮルトネイ」790 F.2d 1378, 1382 (9th Cir.1986)。

III.科学界内における容認

本件訴訟において、マーガレット・シンガー博士とリチャード・オフシェ博士は、とりわけ宗教的カルトに関連して、思想改造の理論について証言しようとしている。

思想改造の理論は新しいものではない。それは1950年代の朝鮮戦争中の米国人戦争捕虜の研究に由来している。幾人かの戦争捕虜が彼らを捕獲した者たちの信念体系を採用したように見えたのは何故かを説明しようと試みて、ジャーナリストでありCIA諜報部員のエドワード・ハンターは、これらの捕虜の自由意思と判断力は洗練されたマインド・コントロールまたは「洗脳」の技術によって支配された、という理論を述べた。エドワード・ハンターの「中国における洗脳」(1951)を参照。洗脳という言葉は、以下の要素を含むマインド・コントロールの過程を描写するのに用いられ続けている。

…感覚遮断、生理的な枯渇、認知的不協和、同僚の圧力、そして権威者や支配者の明確な断言などの手段によって、暗示や操作に対する本人の感受性を高めるような支配された環境を創出する。(この)教え込みの結果として、自主性や主体的に思考する能力の著しい減退が起こり、それは本人の盲目的な従順さや、過去の関係、所属、交際との断絶を誘発する。「モルコ対世界基督教統一神霊協会」46, Cal.3d 1092, 1109, 252 Cal.Rptr. 122, 762 P.2d 46 (1988) (「ピーターソン対ソーリエン」299 N.W.2d 123, 126 (Minn.1981)を引用)

エドワード・ハンターが米国人戦争捕虜の「洗脳」と彼が呼んだものを観察した少し後に、ロバート・リフトン博士とエドガー・シェイン博士が思想改造理論に関する根本的な科学的見識を生み出した。ハンターがしたように、中国における米国人戦争捕虜の経験に依拠し、リフトン博士とシェイン博士は洗脳あるいは「強制的説得」は存在し、それは非常に効果的であると結論した。R・リフトンの『思想改造とトータリズムの心理学』(1961)、E・シェイン『強制的説得』(1961)を参照。しかしながら、それ以来実質的な論争となったことは、リフトン博士とシェイン博士が彼らの強制説得のモデルを戦争捕虜の状況に限定しなかったことである。むしろ、彼らの初期の作品は強制的説得を「人が物理的、社会的、あるいは心理学的な力によって、影響を受けている状況を離れることが抑制されているような、すべての説得や影響の例に適用可能である」とみなしている。『強制的説得』前掲、269ページ。

本件訴訟においては、政府はリフトン、シェインは共に極端な力や物理的強制の役割を思想改造のプロセスにおいて本質的なものであるとみなしていると主張する。法廷はリフトンとシェインをこのように読むことには同意しないが、思想改造理論の中の影響過程には強制の連続体が存在することを彼らの学識が認めている、というのは本当である。その連続体の片方の極は極端な物理的強制によって定義されており、もう片方は完全に個人主義的で自律的な意思決定によって定義されている。この連続体に沿った点の中には、現在争点となっているいわゆる宗教的カルトだけではなく、大学の同好会、軍隊、アルコール中毒患者更生会のような自助組織、そして恐らく犯罪を行うギャングのような影響過程も含まれている。

[2]シンガー博士やオフシェ博士のような人々によって、強制的説得の概念が宗教的カルトに適用されたのは、比較的最近の展開である。リフトンとシェインの理論のこのような拡大は、本物の思想改造理論は必ず身体的拘束や虐待を伴う説得に限定されると信じる学界のメンバーからの抵抗にあってきた。法廷に提出された記録は、シンガー博士とオフシェ博士によって提出された思想改造理論に同意する尊敬すべき心理学者や社会学者による宣言、宣誓供述書、および手紙で満ちているが、政府は彼らの理論に異議を申し立てている尊敬すべき心理学者や社会学者による宣言、宣誓供述書、および手紙をそれと同じ数だけ提出してきた。被告はまた、シンガー博士の理論が彼女の分野内で一般的に受け入れられているという陳述を裏付けるために、シンガー博士がマーク・マニュアルにカルトの議論も含んだグループ精神力学の分野の著者として記載されていることにも依拠している。『診療とセラピーのマーク・マニュアル』(15版、1987)を参照。有名な医学の文献にシンガー博士が寄稿しているということは、彼女の尊敬された心理学者としての信用を立証するには役立つが(専門家としての地位については法廷は争わないが)、マーク・マニュエルに好意的な記載が存在するというだけでは、強制的説得に関する彼女の理論が彼女の同等者たちによって一般的に受け入れられているとみなすことはできない。

学界における支配的な見解のより重要なバロメーターは、米国心理学会(APA)や米国社会学会(ASA)のような専門家組織によって提供される。法廷に提出された証拠は、後に詳細に示されるように、APAもASAもシンガー博士とオフシェ博士の思想改造についての見解を是認していないということを示している。

APAは1980年代半ばに強制的説得に関するシンガー・オフシェ見解の科学的価値を考察した。とりわけ、APAは特別専門委員会に詐欺的で間接的な説得と支配の方法について研究し、報告書を準備するよう委任した。APAはシンガー博士をその特別専門委員会の議長に指名した。しかし、シンガー博士の特別専門委員会がその報告書を完成させる前に、APAはシンガー博士とは相反する強制的説得についての立場を公式に是認した。1987年初期に、APAはある行動科学者および社会科学者たちと共に、二人の個人が宗教的カルトに強制的に加入させられ会員であることを継続させられたと訴えた訴訟に対して、法廷助言書を提出したのである。「モルコ対世界基督教統一神霊協会」46, Cal.3d 1092, 252 Cal.Rptr. 122, 762 P.2d 46 (1988)は、そのときカリフォルニア州最高裁判所において係争中であった。APAの助言書は、シンガー博士の強制説得理論は意味のある科学的な内容を提示していないので、「モルコ」訴訟における事実審理法廷が彼女の提出した専門家証言を排除したのは正しかったと論じた。

その法廷助言書がカリフォルニア州最高裁判所に提出された少し後に、APAは署名調印者としてその名称を載せるのを取り下げた。本件訴訟の被告は、APAが「モルコ」の訴訟に参加するのを取り下げたことは、法廷助言書にあるシンガー博士の理論に対する批判を否認したことを示していると主張するが、実際には取り下げが行なわれたのは実質的な理由によるものではなく、手続き上の理由によるものであった。法廷に提出された証拠は、APAが強制的説得に関する何らかの立場を是認する前に、シンガー博士の特別専門委員会からの報告を待つことに決めた、ということを明確に立証している。実際、APAによる署名調印取り下げの申請は、この行動によって、APAは法廷助言書において示された見解に相反するいかなる見解の是認を示唆するものでもなく、最終的に助言書に表現された見解に署名することが不可能であることを意味するものでもない、と明確に述べている。重要なことは、1988年10月にシンガー特別専門委員会の強制的説得に関する報告書が検討のために提出されたときに、APAは最終的にそれを否定しているということである。APAはシンガー博士の報告書は科学的な価値を欠き、その調査結果を裏付けている研究は方法論的な精密さを欠いているとみなしたのである。

米国社会学会もまた最近、強制的説得を宗教的カルトに適用しているシンガー・オフシェ・テーゼの価値を考察した。1989年5月にASAは、科学的宗教研究学会および多くの個人と共に、「モルコ」訴訟にもう一つの法廷助言書を提出した。このときは、この訴訟は連邦最高裁に上告されていた。APAがしたように、ASAの助言書はシンガー・オフシェ・テーゼとは全く異なる立場を取った。この決定はASA会員の間に大きな口やかましい分裂を引き起こし、リチャード・オフシェ博士を含むグループはASAに対して法廷助言書への署名を取り下げるよう要求した。法廷助言書が採用した立場に対する異議に加えて、オフシェ博士のグループはASAが一度は法廷助言書にその名を連ねることを公式的に認可したという事実に対しても異議を申し立てた。幾人かのメンバーはASAに対して法廷助言書にその名を留めるよう主張したが、ASAは最終的に署名を取り下げることを決議した。ASAの行動が、法廷助言書に表現されている立場の破棄に基づくものであることを示す記録は何もない。むしろ、ASAは1989年8月に「モルコ」訴訟への参加を断念して以来、どちらの側とも公式的に提携してこなかったと見うけられる。

以上のように年代順に記録すると、本件訴訟の記録は、強制的説得を宗教的カルトに適用するシンガー・オフシェ・テーゼを科学界は承認してこなかったことを立証している。これらのカルトがその会員の自由意思を征服しているというテーゼは論争の余地がある。しかし、専門家の証言を認容するかどうかを決定するに当たって、法廷は「フライ」において宣言された一般的な容認基準がいくらかの論争を許容していることを認める。「フライ」は、「法廷は公認された科学的原則や発見から演繹される専門家証言を受けるためにはおおいに役立つが、その演繹をもたらすものはそれが属する特定分野において広く受け入れられるほど十分に確立されたものでなければならない」。「フライ対米国」293 F at 1014。

本件訴訟に提出された証言がフライ基準を満たすかどうかという問題は、連邦法廷が初めて直面するものの一つではない。「クロピンスキー対世界計画実行議会米国会議」853 F.2d 948 (DC Cir.1988)においては、シンガー博士による強制的説得の証言を事実審理法廷が許可したことを、控訴裁判所では満場一致で破棄した。その訴訟では、原告は被告が超越瞑想を用いて彼を洗脳したと申し立てて民事訴訟を起こした。控訴裁判所は、原告は「シンガー博士の特定の理論、すなわち物理的な脅しや強制が伴わなくても思想改造の技術は効果を発揮するということが、科学界において一般的な承認はもちろんのこと、相当の支持者を得ているという証拠を与えることに失敗した」という結論を下した。(Id. at 957)本件訴訟とは異なり、「クロピンスキー」の法廷は、不完全な記録を根拠としてシンガー博士の証言を認容するのを断った。ここでは被告は、シンガー博士とオフシェ博士の見解が科学界において受け入れられているという自らの主張を裏付ける証拠を提出するための機会を十分に与えられてきた。しかしながら、本件訴訟において政府によって提出された証拠となる論争の記録と、これらの見解の重要な否定は、より説得力がある。

[3]本件訴訟において、フライ分析の目的に適切な分野が米国心理学会と米国社会学会を含んでいることは、ほとんど議論の余地がない。本件訴訟における広範囲な記録に基づいて、法廷はシンガー博士とオフシェ博士の思想改造理論に対する一般的な容認や大多数の同意は存在しないと判断する。本件訴訟に提出された証言は、科学的価値と方法論的な精密さの両面の理由によって科学界から異議を申し立てられてきた。シンガー博士とオフシェ博士は、個人の自由意思が物理的な力を伴わない説得技術によって支配され得ると主張する。彼らはさらに、自分たちは特定の性格構成要素を持った人の自由意思を征服するのに必要な非物理的な強制の程度を、科学的な正確さをもって差し示すことができると主張する。

法廷が理解する限りにおいては、提出された証言を取り巻く論争は、心理学者と社会学者は環境的刺激に対する観察可能な反応を調査することに、その領域が限定されているという事実から生じている。強制は外敵環境の特徴である。その効果や程度は、その環境においてほとんどの人が示す抑制された行動の範囲から推論されなければならない。同様に、自由意思は表現し難いものであり、直接的な観察や測定によって感知できるものではない。上述の法廷助言書の一つから一例を借りれば、見たところ健康そうだが無害な乞食がカネを求めてきたときに、カネをあげる気になる人もいればそうでない人もいる。しかし、強盗が被害者の喉にナイフをつきつけてカネを要求したならば、大多数の人はカネを出すであろう。物理的な力による脅しを伴った強盗は非常に強制的であるが、物乞いは通常そうではない。法廷は、武器による強盗は平均的な人の自由意思に打ち勝つに十分なほど強制的であるということは、科学界において(そして至るところで)一般的に受け入れられていると判断する。しかし、本件訴訟において提出された証言は物理的な力の行使や脅しを伴わない強制的説得に関するものである。したがって、その証言の主題は、無害な乞食が見知らぬ人からカネを強制的に得ようとする試みに似ている。これらの状況において自由意思の剥奪が起こるかどうかに関して、科学界の中には意見の一致はなく、この剥奪をいかにして測定するかに関しても意見の一致はない。

思想改造の分野内におけるシンガー・オフシェ・テーゼに関する意見の不一致は、ロバート・リフトン博士自身が強制的説得理論を宗教的カルトに適用することを差し控えているという事実によって際立っている。リフトン博士は以下のように観察している。

「カルトは元来、精神医学的な問題ではなく社会的・歴史的な課題である…。私はそのパターンを法的に問いかけることが最善であるとは思わない…。すべての道徳的問題を法的あるいは精神医学的に解決できるわけではないし、そうすべきでもない。私は精神科医と神学者はここにおいて共通に、神をもてあそぶのを避け、われわれが自分自身の視点や特定の訓練からもたらされる完全な解決策のようなものを持っているという考えを否定するために、一定の慎みを持つ必要があると考える。」R・リフトン『人間の未来と核時代のためのその他のエッセイ』218-219,(1987)。

法廷は、本件訴訟において慎みが求められているという点でリフトン博士に同意する。シンガー博士とオフシェ博士は彼らの分野における尊敬された人々であるが、宗教的カルトによって実践されている強制的説得に関する彼らの理論は、連邦法廷において証拠として認容されるほど十分に確立されていない。

したがって、被告はシンガー博士とオフシェ博士の思想改造理論が、彼らの分野において一般的に受け入れられているということを示すという「フライ」に基づく責任を満たさなかった、と法廷は判断する。リフトン博士がこれらの理論に関する留保を表明したということばかりでなく、より重要なことに、シンガー・オフシェ・テーゼはAPAとASAの承認を欠いている。思想改造は学会において論争を巻き起こしている複雑な主題であり、被告は自分が提出した専門家証言の科学的根拠、信憑性、および一般的容認を立証する責任を負う。ひいきめに見ても、証拠が立証していることは精神科医、心理学者、および社会学者は、シンガー・オフシェ・テーゼに関する意見の一致があるかどうかに関して、合意していないということである。

IV.被告の精神錯乱および減少した能力の抗弁

シンガー博士とオフシェ博士の思想改造理論が信頼できる専門家証言のためのフライ基準を満たしていないと判断した上で、法廷は次に被告の精神錯乱および減少した能力の抗弁を背景として、これらの証言の妥当性を考察する。

A.精神錯乱の抗弁

[4]精神錯乱の抗弁に関する1984年の改正法は、合衆国法典第18章17節に法典化されているように、連邦犯罪に対する精神錯乱の抗弁を支配する。この法律のもとに、被告は自分の精神錯乱の抗弁を明確で説得力のある証拠によって立証する責任があり、法規の二重のテストを満たさなければならない。第一に、彼は自分が起訴されている罪を犯したときには深刻な精神的疾患または欠陥で苦しんでいたことを立証しなければならない。第二に、彼の精神的疾患または欠陥が、自分の行動の性格や質、あるいは不法性を判断する能力を妨げていたのでなければならない。このうちの片方でも明確で説得力のある証拠によって立証できなければ、それは精神疾患の抗弁が法的に不十分であるという結果をもたらす。合衆国法典第18章17節(a);「米国対ノット」, 894 F.2d 1119, 1121 (9th Cir.1990)。

この法律により、議会は本質的に、連邦刑法のための精神錯乱の法的抗弁を制定するために、知覚欠陥の概念に立脚した M’Naghten 規則を採用したのである。同時に、目的に基づく排除によって、議会は法的精神錯乱の他の定義において述べられてきた意志力の欠陥のさまざまな公式化を拒否したのである。

このように、精神錯乱の抗弁に関する改正法によってもたらされた変化は、抗弁を知覚欠陥に限定し、抗弁を立証するために意志力の欠陥の主張を使用することを事実上排除するのである。本件訴訟において被告は、事実は抵抗できない衝動の理論を裏付けず、彼の法的精神錯乱の抗弁は意志力の欠陥に基づくものではないと主張する。被告は、彼の論じるところによれば、自分は長期間にわたる精神的疾患または欠陥を有しており、それがサイエントロジー教会によって施された強制的説得と連合して、自分の行動の性格や質、あるいは不法性を判断することができないようにした、ということを立証する精神医学的な証言を提示しようと試みている。

[5]政府は、被告はサイエントロジー教会に自発的に入会したのであり、また精神錯乱の抗弁に関する改正法は被告の制御を越えた精神的疾患または欠陥のみを考慮するという根拠に基づいて、被告が提案した精神医学的証言に対して異議を唱えている。「フライ」に基づく思想改造についての証言を認容するか否かに関する法廷規則に照らして、法廷はこうした議論をしない。加えて、政府は被告の先在する精神状態そのものは、精神錯乱の抗弁を立証するのに十分でなく、したがってシンガー博士とオフシェ博士の証言は全面的に排除されるべきであると主張している。被告の精神錯乱の抗弁に関して提出された証言の中で思想改造理論に基づいていない部分のみを考慮すれば、法廷は政府の主張を拒否する。法廷は、シンガー博士が被告に対してなした診察について証言することと、またそれが法的精神錯乱の抗弁に関するものである限りにおいて、起訴されている犯罪を犯したときの被告の精神状態に関する彼女の意見を証言することを許可するであろう。また、それが診療上の検査の一部である限りにおいては、シンガー博士はサイエントロジーでの経験に関する被告自身の描写について証言することもできる。しかしながら、法廷は既にシンガー博士の思想改造理論は彼女の分野において一般的に受け入れられていないと判決したので、彼女は被告の精神状態に関する自らの意見の根拠として、被告のサイエントロジーでの経験と彼女の思想改造理論に関して主張されているいかなる関係にも依拠することはできない。

B.減少した能力の抗弁

[6]「減少した能力」の抗弁は、被告は必要な犯意を有していなかったので、起訴された犯罪を犯さなかったという主張を裏付けるために、被告によって導入された証拠を示す呼び名に過ぎない。減少した能力の抗弁は、法的精神錯乱の抗弁といくつかの重要な点で異なる。法的精神錯乱の抗弁が成功した後には、法廷は被告の拘束を続けるし、自発的な収監を命じるかもしれないが、減少した能力の抗弁が成功した結果は完全な釈放である。さらに、精神錯乱の抗弁に関する1984年の改正法が法的精神錯乱の抗弁を知覚欠陥の証言に限定したということはよく確立されているが、この法律が残存する同じ方法による減少した能力の抗弁を限定したかどうかは、完全に明確ではない。精神錯乱の抗弁に関する改正法は、被告を自分の不法行為の性格や質に対して判断不能にしないようないかなる精神的疾患あるいは欠陥も、抗弁ではないとはっきりと述べている。合衆国法典第18章17節(a)。しかしながら、後に法的拘束が意図されているような状況において精神状態の証言を制限し、後に法的拘束が意図されていないような状況において許容することは、明らかに異常であるにもかかわらず、最近の訴訟は被告が明確な意図的犯罪に対して減少した能力の抗弁を提示している場合には、被告の知覚欠陥の枠に留まらない精神医学的な証言が、明確な意図の要素を否定するために認容可能であることを示唆している。「米国対トワイン」853 F.2d 676 (9th Cir.1988)、「米国対ポーロット」827 F.2d 889 (3d Cir.1987)、「米国対フリスビー」623 F.Supp. 1217 (N.D.Cal.1985)を見よ。

[7]本件訴訟においては、被告は11件の郵便を使っての詐欺罪のかどで告訴されたが、それには騙そうという明確な意図が必要とされる。そこで被告は、自分には詐欺を犯そうという明確な意図を形成するだけの精神的能力があるか否かの問題に関して、自己の精神的欠陥の証拠を示す資格があると主張する。そのような精神医学的証言は誤用される危険が極めて大きいので、法廷は「提供された証拠が法廷での使用を認可できるほど十分な科学的裏付けに基づいているかどうか、またそれは陪審が基本的な争点を判断するのを助けるかどうかについて」慎重に評価しなければならない。「米国対ポーロット」827 F.2d at 905 (「米国対ベネット」539 F.2d 45, 53 (10th Cir.1976)を引用)。

被告の提出した文書は以下のように述べている。

…フィッシュマン氏に影響を及ぼすようしむけられ、彼の知覚力、態度、意思決定過程(知覚機能)を変え、彼が自由な判断をするのを妨げた(意志の要素)影響技術に関して提出されたオフシェ・シンガー両博士の証言は、被告が合衆国法典第18章17節に準拠した法的精神錯乱状態にあったかどうかに関わらず、彼が明確な意図を欠いていたことを陪審が発見するのに非常に適切である。

被告の追加メモ16ページ。被告はこのように、彼が詐欺を犯すのに必要とされる明確な意図を持っていたという政府の主張を否定するために、サイエントロジー教会によって利用された影響技術、あるいは強制的説得に関する証拠を導入しようと試みている。法廷は既に強制的説得と宗教的カルトを含んだシンガー・オフシェ・テーゼは、科学界の中で一般的に認められておらず、したがって「フライ」のもとに認容できないと判決した。この認容できない専門家証言が、明確な意図の要素を否定するために被告によって提出された唯一の証拠であるため、法廷は減少した能力の抗弁を裏付けるいかなる証拠も許可しないであろう。

もう一つの議論として、被告は自分の詐欺の計画を開始した後にサイエントロジー教会に入会しており、したがって教会の強制的説得とは独立して先在的な意図を持っていたに違いないので、本件訴訟においては明確な意図は争点にならない、と政府は主張する。被告が正確にいつサイエントロジー教会に入ったかについては、双方が論争している。これは陪審が考慮すべき事実の争点であるので、政府の議論は失当である。

政府の最後の議論とは独立して、既に示唆されているように、法廷は被告の減少した能力の抗弁は本件訴訟においては認容できないと判定する。被告によって提出された、明確な意図の要素を否定する証言は、もっぱらサイエントロジー教会によって彼に影響を及ぼすようしむけられたと申し立てられている影響技術に関するものであり、それは法廷がフライ基準のもとに認容できないと判断した思想改造理論の一側面である。この巡回裁判区の「米国対フリスビー」と「米国対トワイン」における判断が、陪審が減少した能力の抗弁を聞くのを許可したとしても、それらは本件訴訟の事実には当てはまらない。これらの訴訟は、連邦証拠法の規則702に述べられた認容基準を変えるものではない。たとえ本件訴訟に提出された減少した能力に関する証言が規則702のもとに認容できたとしても、法廷は「フリスビー」における「不当に混乱や誤解をもたらしたり、繰り返しであったり、明確な意図の争点について陪審が判断するのを助けないような専門家証言は排除されるであろう」という訓戒に留意するであろう。(623 F.Supp. at 1224)上記のすべての理由により、法廷は被告の減少した能力に関する提出された証言を排除する。

V.専門家の資格

第九巡回裁判区は、「フライ」は精神医学的証言が資格のある専門家によるものであることを要求していると解釈してきた。「米国対アマラル」488 F.2d 1148, 1153 (9th Cir.1973)。政府はシンガー博士の資格に対しては争っていない。したがって、法廷はサイエントロジー教会からの外的影響が、起訴されている罪を犯したときの被告の精神状態にいかなる影響を及ぼしたかについて証言するのにオフシェ博士が適格かどうか、という問題についてのみ述べる。

[8]連邦証拠法702は、必要な「知識、技術、経験、訓練、あるいは教育」のある証人のみが専門家として証言できると述べている。オフシェ博士は大学院および学部レベルの思想改造を主題とした課目を教えている大学の社会学教授である。彼は法廷精神医学または法廷心理学の専門的知識を持っていない。オフシェ博士は精神衛生の専門家ではないため、規則702のもとに、彼は被告が深刻な精神疾患を患っていたか否かについて証言することはできない。

被告はオフシェ博士を思想改造プロセスの専門家として提示することにより、この不可避的な障害を避けようと試みている。被告は、思想改造は混合領域の一例であるため、シンガー博士の最終的な意見を補足し基礎的な裏付けを提供するために、法廷は社会心理学者の証言を許可すべきであると主張する。法廷はこれに同意しない。たとえ、専門家がある意見の根拠を補助的な証拠によって提供される事実の上においているいくつかの訴訟において、そのような証拠が認容されたとしても、最終的な専門家証言そのものが認容されていない本件訴訟においては、それは明らかに認められない。

加えて、たとえ仮にシンガー博士が彼女の意見の根拠を思想改造理論に置くことが許されたとしても、オフシェ博士は証言を許されないであろう。提出されたオフシェ博士の証言は、(1)サイエントロジー教会はいかにして影響技術を用いるか、そして(2)これらの影響技術が被告を含めた教会のメンバーに与える影響、に関する彼の結論を提供している。前者の話題についての一般的な議論は本件訴訟と関係がない。後者の話題に関して言えば、オフシェ博士は被告の精神状態を診断する資格はもとより、教会のメンバーの精神状態を一まとめに診断する資格はさらにない。

最後の問題として、教会の習慣に関するオフシェ博士の全般的な描写は、それが持っている証拠としての価値よりも、陪審を誤解させ混乱させるであろう不当な偏見の危険の方が事実上勝っている。したがって、彼の提出した証言のこの側面は連邦証拠規則403によって排除されなければならない。

法廷はオフシェ博士は被告の精神状態について専門家証人として証言する資格はなく、また彼が提出したサイエントロジー教会の行為に関する証言は、本件訴訟における明確な意図と精神錯乱の争点とは関係がなく、認容できないと判断する。法廷は、オフシェ博士の思想改造に関する理論がフライ基準の意味内において一般的に受け入れられていないという判決とは独立して、これらの判断を下す。これらすべての根拠に基づいて、オフシェ博士の提出した証言は全面的に排除される。

VI.結論

上記のすべての理由により、法廷は、シンガー博士とオフシェ博士による思想改造の主題に関する証言を排除するようにという政府の申請を、一部認め、一部否定する。法廷の判決は以下のように要約される。

1.リチャード・オフシェ博士の証言を排除するようにという政府の申請は、オフシェ博士は精神衛生の専門家ではなく、彼の証言は争点と関係がなく、思想改造に関する彼の理論は科学界において一般的に受け入れられておらず、彼の証言は連邦証拠法403のもとに認容できない、という根拠に基づいて認められる。

2.マーガレット・シンガー博士の証言を排除するようにという政府の申請は、一部認められ、一部否定される。資格を持った精神衛生の専門家として、シンガー博士は起訴されている出来事が起きた時に被告が精神的欠陥を患っていたかどうかに関して証言し、彼女の意見を述べることができる。しかしながら、シンガー博士の証言は、精神錯乱の抗弁に関する1984年の改正法によって制限される。この法律に従って、シンガー博士は知覚欠陥の対抗概念である意志力の欠陥を含んだ証言によって、被告の精神錯乱に関する彼女の意見を裏付けることはできない。加えて、シンガー博士は思想改造を含んだ証言によって自分の意見を裏付けることはできない。なぜなら、オフシェ博士の理論と同様に、思想改造に関する彼女の見解は、科学界において一般的に受け入れられていないからである。

そのように命じる。

文書の終わり

カテゴリー: 「マインドコントロール」考察に関して有益な情報 パーマリンク