私がこれまでに平和大使協議会の機関誌『世界思想』に執筆した巻頭言をシリーズでアップしています。巻頭言は私の思想や世界観を表現するものであると同時に、そのときに関心を持っていた事柄が現れており、時代の息吹を感じさせるものでもあります。第10回の今回は、2022年2月号の巻頭言です。
南北統一を見据えた「戦略的朝鮮半島政策」の確立を
昨年度のUPFの世界的な活動は、朝鮮半島の平和的統一に焦点が絞られていた。5月9日には「シンクタンク2022」出帆のための希望前進大会が開催され、それを前後して朝鮮半島の平和と統一をテーマとしたオンラインの行事が世界各地で開催された。9月からは日米韓の三元中継で「シンクタンク2022フォーラム」が開催され、マイク・ポンペオ前米国務長官、マイク・ペンス前米副大統領、投資家のジム・ロジャーズ氏らが基調講演を行い、日米韓三カ国の有識者たちがディスカッションを行った。
シンクタンク2022の目的は朝鮮半島の平和的統一に貢献することであり、その目標は平壌(北朝鮮政府)を関与させ、相互信頼を促進し、国際社会への統合を進めることであるとされている。北朝鮮のソフト・ランディングを目指してトラック1(国家主体)によるアプローチだけでなく、トラック2(民間レベル)を含む多角的なアプローチにより、あらゆる可能性を模索するシンクタンクを目指している。
朝鮮半島の南北統一は韓民族の悲願に違いないが、果たして日本政府はこの問題についてどう考えているのだろうか。実は日本政府には個別の対北朝鮮政策と対韓国政策はあるが、南北統一に対する政策は存在しないのである。日本政府は朝鮮半島の南北統一に対しては支持も反対もせず、この問題に関しては言及しないという姿勢だ。
現在の日本の外交政策は、北朝鮮に対しては核・ミサイル問題、拉致問題などの解決を課題としており、韓国に対しては竹島、慰安婦、徴用工などの問題を抱えている。総じて目の前にある外交課題に受動的に対応しているだけであり、そもそも朝鮮半島との関係を将来どのようにしていくべきかについての長期的な戦略が存在しないのである。
明治期の日本は、帝国主義的政策で問題はあったものの、安全保障および経済・社会開発の両面で戦略的朝鮮半島政策を持っていた。しかし戦後においては、過去の植民地統治の影響等もあり、日本外交における朝鮮半島政策の優先順位は低かった。冷戦期においては、日本の外交政策はアメリカの政策に拘束され、状況対応的な外交スタイルに陥り、戦略的な朝鮮半島政策が構築されることはなかった。
しかし現在、アメリカの東アジアにおける影響力や存在感の低下に伴い、それを補う「補佐役」としての日本の役割や使命が増大している。状況対応的な外交スタイルではその役割を果たすことはできず、長期的な視野に立った戦略が必要だ。いまこそ日本は、朝鮮半島における南北分断の状況を所与不変の前提とせず、将来の朝鮮半島統一をも視野に入れた「戦略的朝鮮半島政策」を確立すべきである。
日本にとって最悪のシナリオは、中国主導の、共産主義による、反日の、核保有の朝鮮半島統一国家が誕生することである。一方で最善のシナリオは、朝鮮半島が自由、民主主義、法の支配などの普遍的価値を信奉する統一国家として政治的に安定し、経済的に繁栄し、日本に対して友好的で、核を持たない国になることである。
日本は米国や韓国との同盟関係を維持しつつ、朝鮮半島統一のプロセスに積極的に関与すべきである。