Moonism寄稿シリーズ10:2020年11-12月号


 私がこれまでに「UPFのビジョンと平和運動」と題してWorld CARP-Japanの機関誌『Moonism』に寄稿した文章をアップする「Moonism寄稿シリーズ」の第10回目です。World CARP-Japanは、私自身もかつて所属していた大学生の組織です。私が未来を担う大学生たちに伝えたい内容が表現されていると同時に、そのときに関心を持っていた事柄が現れており、時代の息吹を感じさせるものでもあります。今回は、2020年11-12月号に寄稿した文章です。

第10講:中国の脅威に対峙する平和大使運動

 世界の覇権国家を目指す中国が21世紀最大の脅威であるという認識は、コロナ以前から米国に広まっていましたが、コロナ禍によって米中対立はさらに激しくなりました。今回は米国の対中政策の大きな転換を示した上で、日本の安全保障問題に正面から取り組む平太大使運動について解説します。

 今年7月23日にカリフォルニア州にあるリチャード・ニクソン大統領図書館・博物館においてマイク・ポンペオ米国務長官が行った演説は、「米中新冷戦」が新たな局面に入ったことを示す内容でした。

今年7月23日にカリフォルニア州で演説するポンペオ米国務長官

今年7月23日にカリフォルニア州で演説するポンペオ米国務長官

<ポンペオ演説の衝撃>
 ポンペオ国務長官の演説の要旨は以下のようなものです。米中国交正常化を実現したニクソン政権以降、米国の対中政策は「関与(Engagement)政策」を基本としてきました。米国は、中国に関与していくことで、互いに敬意を払い、協力し合える希望の未来が開かれると思っていたのです。時間と共に米国の政治家たちの思い込みは強まり、中国は発展しているから、開かれた自由な国になり、他国にとって今ほど脅威ではなくなり、友好的になるはずだと考えました。しかし、そうはなりませんでした。

 中国は国内では独裁的支配を強め、国外の至る所で自由主義への敵対を強めています。今こそ、中国の脅威が明確であることを示さなければなりません。自由世界は、独裁体制に勝利しなければならないのです。中国共産党がマルクス・レーニン主義政権であることを忘れてはなりません。習近平総書記は、破綻した全体主義思想の真の信奉者です。習氏が何十年も前から中国共産主義の世界的覇権を追求してきた背景には、まさにこの思想があるのです。中国を普通の国として扱うことはできません。

 目標は、中国を変革へと向かわせることです。いま行動しなければ、中国共産党はいずれ、自由を蝕み、民主主義社会が苦労して築き上げてきたルールに基づく秩序を破壊するでしょう。いま膝を屈すれば、私たちの子供の子供は、中国共産党のなすがままになっているかもしれません。同様の考え方を持つ国々が新たに結集し、新たな民主主義同盟を組織すべき時です。

<トランプ政権の対中戦略>
 2016年に誕生したトランプ政権は、歴代米政権の対中政策とは明らかに異なる方針を打ち出してきました。これまでは安全保障の問題と経済の問題を分けて考えてきたのですが、トランプ大統領はこの二つを結び付け、中国に対して貿易戦争を仕掛けて経済的圧力をかけたのです。

 2017年12月にホワイトハウスが発表した国家安全保障戦略、2018年1月に国防総省が出した国家防衛戦略は、中国は米国の安全保障と繁栄に対する深刻な脅威であり、自らの独裁主義的なモデルにしたがって世界を造り変えようとしている、と指摘しました。

 マイク・ペンス副大統領が2018年10月4日に行った「トランプ政権の対中政策」という演説は、世界に衝撃を与えました。同副大統領は中国が米国内で情報操作を継続し、「かつてないほど積極的に、我が国の国内政策や政治活動に干渉している」と非難したのです。さらに、「中国は米国を西太平洋から追い出し、米国が同盟国に手を差し伸べるのを阻止しようとしているが、彼らは失敗する」と宣言しました。

2018年10月4日にハドソン研究所で講演するペンス副大統領

2018年10月4日にハドソン研究所で講演するペンス副大統領

 中国に対する米国の厳しい姿勢は、いまや新しい段階に入っています。かつては中国の脅威を訴えるのは決まって共和党右派でしたが、いまや民主党左派に至るまで超党派的に中国批判で一致しています。これまでは外交、経済、軍事、テクノロジー、情報、人権など、個別のイッシューでなされていた中国批判が、いまや包括的な批判になりました。米国は中国の覇権主義の脅威に対して本気で目覚めたようです。これは目先の経済的利益よりも国家の存立をかけた戦いなので、長期化することが予想されます。米国は中国をどこまで追い込むか、中国はどこまでそれに耐えるか、という構図なのです。

<日本の安全保障と平和大使運動>
 日本は地政学的に米中の板挟みになりやすい位置にいます。日本は米国と同盟関係にある一方で、歴史的に中国とは深い関係にあり、経済的な結びつきも強いからです。しかしこれを単なる二つの超大国の覇権争いと見ることはできません。そこには自由主義と共産主義という明確な価値観の違いが存在するからです。自由、民主主義、法の支配、市場経済を基本とする日本の価値観は、基本的に米国および西洋諸国と同じです。そして日米同盟は日本の安全保障の基本なので、日本の政策は基本的に米国に歩調を合わせざるを得ないのです。

米中対立と日本の安全保障

 中国の脅威から日本の平和と安全を守るためには、確固たる安全保障体制の整備が不可欠です。それは、戦争をするためではなく、戦争を抑止するための体制整備であり、日本と米国と韓国が結束することが必須要件です。いまこそ、日米韓がガッチリとスクラムを組んでアジア太平洋地域の安全を守るという強い姿勢を見せなければなりません。

 日本の平和大使運動は2010年から本格的に安全保障問題に関わるようになり、「①緊急事態基本法を制定しよう、②我が国の防衛力を増強しよう、③集団的自衛権に正面から取り組もう、④日米安保体制強化・日韓防衛協力を推進しよう、⑤スパイ防止法を制定しよう」という5つのスローガンを掲げて運動を展開してきました。当時はまだ民主党政権の時代であり、これらのスローガンの実現は極めて困難なことに感じられましたが、自民党の安倍政権が誕生して以降、その一つ一つが次々と実現の方向に動き出しました。

 安倍政権は2015年9月に、集団的自衛権の限定行使容認を含む「平和安全法制整備法」と「国際支援協力法」を成立させました。この法案は国論を二分し、偏向したマスコミ報道によって激しく攻撃されましたが、平和大使運動はぶれることなく法案に賛成し続け、その意義を訴える大会やセミナーを開催・支援してきました。安倍政権の政策を継承する菅政権の時代に入っても、こうした安保運動を継続していくことが、日本の国益と東アジアの平和と安定に資することになるのです。

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