書評:櫻井義秀・中西尋子著『統一教会』160


 櫻井義秀氏と中西尋子氏の共著である『統一教会:日本宣教の戦略と韓日祝福』(北海道大学出版会、2010年)の書評の第160回目である。

「第Ⅲ部 韓国に渡った女性信者 第九章 在韓日本人信者の信仰生活」の続き

 先回から「第9章 在韓日本人信者の信仰生活」の内容に入った。この章は、韓国に嫁いで暮らす日本人の統一教会女性信者に対するインタビュー内容に基づいて記述されているが、最初に中西氏は調査対象となった在韓日本人信者の基本的属性をデータで示している。先回は調査対象の生年の分布を扱ったが、次に中西氏が示しているのは統一教会との最初の接触のパターンを示した表9-2(p.451)である。この最初の出会いの部分を206ページの櫻井氏の脱会者のデータと比較すると興味深い事実が浮かび上がってくる。

比較表160-1

 中西氏は、「統一教会との最初の接触は、半数が街頭でのアンケート、手相などの占いで声をかけられるか(路傍伝道)、あるいは自宅に印鑑の訪問販売や姓名判断の訪問(訪問伝道)を受けてであり、およそ残りの半数は友人や同僚、既に信者だった母親や兄弟などに誘われてである」(p.451)としている。これは現役信者に関するデータだが、確かに表9-2を見れば、勧誘者が見ず知らずの人であったケースは「路傍」と「訪問」を合わせて19名であり、全体の約49%である。不詳が5%ほどいるが、残りは家族や親族、友人や同僚などのもともと知っていた人から誘われているのである。

 櫻井氏は、「見ず知らずの人を誘う伝道以外にも、家族や知り合いを誘うFF(Family and Friends)伝道と呼ばれるやり方もある。」(p.219)と述べていることから、こうした経路で伝道される人がいることを知らないわけではない。しかし、櫻井氏の示した脱会者に関するデータには、こうした最初の接触について分析した表は示されていないのである。そのかわりに、最初の接触はほぼ一つのパターンに集約されるかのような描き方がなされている。それは以下のようなパターンだ。彼らの中で自ら統一教会の門をたたいたものはおらず、統一教会の伝道者と出会うことによって初めて関りを持つようになった。最初の時点で統一教会の布教活動を受けていることを認識していたものは皆無であり、青年であれば青年意識調査と称するアンケート調査を路傍や訪問で受けて勧誘されるか、壮婦であれば姓名判断等の運勢鑑定を訪問で受けることがきっかけとなる。勧誘者はみな見ず知らずの人であり、家族や親類から伝道された者はいない。

 しかし、現役信者の場合には約半数がもともと知っていた人から伝道されており、その中には母親、きょうだい、いとこ、親類などの血縁者が含まれ、全体の18%を占めている。問題は、この違いをどのように解釈するかである。

 もともと、統一教会に伝道された人の最初の接触に関するデータは、中西氏の示した値に近いと思われる。すなわち、見ず知らずの人から路傍や訪問によって勧誘される人がおよそ半分、家族や知人友人などから勧誘される人が半分ということだ。この中で、家族から伝道された人は、家族から棄教の説得を受けたり、反対されて信仰を棄てたりすることは考えられない。一方で、見ず知らずの人から路傍や訪問によって勧誘された人は、信仰を持っていることが家族に知られたときには反対されたり、棄教の説得を受ける可能性がある。したがって、結果として脱会した人の最初の接触に関するデータは、統一教会信者全体のデータから見ればかなり偏ったものとなり、見ず知らずの人から路傍や訪問によって勧誘された人の割合が特に高い集団となっているのである。

 実際には統一教会に伝道されるパターンは多種多様であり、母親から伝道された者の場合には礼拝や行事について行って自然と信者になったのであり、最初から統一教会であることが分かって信者になっているのである。ところが、脱会者のほとんどが家族の説得によって信仰を棄てるので、入信経路がほぼパターン化されたような人々の集団となるのである。実は櫻井氏自身が「裁判を起こした元信者のデータははずれ値の可能性が高い」(p.201)と認めているのだが、中西氏のデータとの比較によって、皮肉にもこの懸念が実証された結果となったのである。

比較表160-2

 続いて中西氏は、調査対象の家族構成を分析している。これも櫻井氏の205ページの表6-2と比較したほうが分かりやすいので、上記のように両者を並べてみた。果たして脱会者と現役信者の間で家族構成に有意な差があると言えるのだろうか。剥奪という観点からすれば、両親が揃っていない単親家庭は、両親の離婚や死別、あるいは貧困を経験している可能性が高いという点において、宗教に救いを求める要因となると推察することは可能である。しかし、二つの表を比較してもらえばわかるように、脱会者の単親の割合が9%であるのに対して現役信者の単親の割合が11%であるというのは母集団の数からして誤差の範囲内とも考えられ、有意な差とは言い難い。そのため中西氏も「脱会者と比べて現役信者に母子・父子家庭が多いといえるのかどうかはわからない。聞き取りでは、母子・父子家庭だったことが入信の直接的なきっかけとなったと思われる事例はなかった。」(p.451)と分析している。

 このことは、アイリーン・バーカー博士の調査結果ともほぼ一致している。彼女は、会員とその両親の双方に対するアンケートおよびインタビューを通じて、ムーニーは貧困または明らかに不幸な背景を持っているという傾向には「ない」ということが明らかになったと結論している。自身が21歳になる前に両親が離婚した者は、対照群(8%)よりもムーニー(13%)においてわずかに多かったが、それでもムーニーの中で不幸な子供時代を過ごしたと主張する人はほとんどいなかったというのである。イギリスにおけるムーニーの家庭環境も、日本における統一教会現役信者および脱会者の家庭環境も、それほど大きな違いはなく、一言でいえば平均的な家庭環境であり、特に不幸な家庭環境に育った者たちが統一教会に入信したとは言えないということだ。そして、そのことが信仰を持つ原因になったという証拠もないのである。

 中西氏は脱会者よりも現役信者の方が母子・父子家庭がやや多い理由に関して、母子・父子家庭の場合には脱会カウンセリングに取り組むだけの余裕がないというような趣旨の分析を行っているが、これは推察の域を出ない。「推察でしかないが、現役信者は家庭的に脱会者よりも複雑なものを抱えているケースが中にはあるかもしれない」(p.452)という自信のない表現からも分かるように、誤差の範囲内の違いを無理に説明しようとしたとしか思えない。仮にも社会学者であれば、実証できない推察は書くのを控えた方が賢明であろう。

 むしろ、脱会者と現役信者の家族構成で目に付く違いと言えば、三世代同居率の差である。脱会者では三世代同居率は3%に過ぎないのに対して、現役信者では単親の三世代同居率が3%、両親揃っている三世代同居率が18%で、合わせて21%に上る。現役信者の三世代同居率が脱会者の数値の7倍ということになれば、これは誤差の範囲内とは言い難いであろう。しかし、そのことが持つ意味は必ずしも明確ではない。三世代同居は統一教会の教えの理想であり、祖父母のいる家庭環境は子供の精神的発達にとって好ましいものであると考えられている。だからと言って、三世代同居家庭で育った人の方が統一教会の信者になる傾向が高いとは直ちに結論できないし、脱会者よりも現役信者の方が三世代同居率が高いことの説明にもならない。この点に関しては、今後の研究によって明らかになるのを待つしかないであろう。

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