書評:櫻井義秀・中西尋子著『統一教会』161


 櫻井義秀氏と中西尋子氏の共著である『統一教会:日本宣教の戦略と韓日祝福』(北海道大学出版会、2010年)の書評の第161回目である。

「第Ⅲ部 韓国に渡った女性信者 第九章 在韓日本人信者の信仰生活」の続き

 第159回から「第9章 在韓日本人信者の信仰生活」の内容に入り、中西氏の調査対象となった在韓日本人信者の基本的属性を、櫻井氏による脱会者のデータと比較しながら分析してきた。先回までに調査対象の生年の分布、最初の接触の様態、家族構成を比較してきたが、それに続いて学歴を比較することにする。これも櫻井氏による脱会者のデータと並べた方が比較しやすいのでスキャンした図を並記してみた。

比較表161-1

 現在でこそ大学進学率は50%を超えているが、これらのデータには1950年代生まれから1980年代生まれのまで幅広い年齢層の人が含まれているので、統一教会に入信する人の学歴が一般に比べて低いとは言えないだろう。さらに男女の差も考慮に入れる必要がある。2018年の時点では、男女の大学進学率はそれぞれ56.3%と50.%と拮抗してきてはいるが、それでも男性の方がやや高い。これが1978では男性が40.8%に対して女性が12.5%であり、男女の大学進学率にはかなりの差があったのである。同じ年の短期大学への進学率は男性が2.3%に対して女性が21.0%であった。この時代には、まだ女子は大学よりも短大に進学する者が多かったのである。現在では、短大に進学する女子よりも4年制の大学に進学する女子の方がはるかに多い。

 中西氏の調査対象は生年が1960年~70年代が84%を占めており、その年齢層の人が18歳になるのは1978年から1997年の間となる。文部科学省の学校基本調査によると、この期間の高校進学率は常に90%を超えており高原状態にあるが、大学進学率は男性が40.8%から34.1%に下落しているのに対して、女性は12.5%から14.7%に上昇している。短大への進学率は男性が2.3%から1.7%に減少、女性は21.0%から22.1%とほぼ横ばい状態である。櫻井氏の調査対象の79%が女性であり、中西氏の調査対象の92%が女性であることを考えれば、脱会者の大卒が20%、現役信者の大卒が16%であるということは、この年代の女性としては平均よりもやや高学歴と判断することができるであろう。一方、短大卒は脱会者で17%、現役信者で11%だが、これは平均値よりもやや低い数字になっている。

 黒田勝弘著『韓国 反日感情の正体』(角川学芸出版、2013年)の中では、在韓の日本人女性に関して、「韓国社会では日常的に彼女らを垣間見ることができる。たとえば取材で地方に出かけると、自治体の広報関係で日本語通訳としてよく見かける。日本系の居酒屋などのパートもそうだ。大卒がほとんどで、宗教に入れ込むほどの真面目派だから仕事はできる。」と描写されている。実際の大卒は16%であり、短大を含めても27%に過ぎないが、黒田氏が出会ったような通訳として社会で活躍しているような女性たちは大卒が多いということなのだろう。

 統一教会信者の学歴に関する櫻井氏と中西氏の見解はほぼ同じであり、この点で脱会者と現役信者の間には差はないことになる。櫻井氏は脱会者について、「青年信者の教育歴に関してみると、専門学校・短期大学を含む高等教育を受けたものは半数を超え、同世代の高等教育修了者より若干高い程度である。もちろん、女性が多いために、専門学校・看護学校・短期大学だけで二四名(三六パーセント)もいる(図6-3)。」(p.206)としており、中西氏は在韓の日本人信者について、「脱会者と同じく半数以上が専門学校、短期大学を含めた高等教育を受けている」(p.452)とまとめている。このように、統一教会に入信する人が一般よりも低学歴であるという証拠はなく、むしろやや高い傾向にあるというのが妥当であろう。すなわち、彼らは高等教育を受けた後に信者となっているのであり、「無知ゆえに信者となった」とは言えないということだ。

 こうしたデータは、アイリーン・バーカー博士の『ムーニーの成り立ち』において示されているデータとも符合している。
「ムーニーが基礎的な知識に欠けるがゆえに説得を受け入れやすいのだという証拠はほとんどなかった。3分の2(非入教者あるいは離脱者のどちらよりも高い割合)が18歳を超えても教育を受けていた。5分の4以上が、少なくとも「一般教育修了資格証書Оレベル」(あるいはそれと同等の学力)には到達していた。(注:「一般教育修了資格証書」とは、イギリスおよびイギリスの旧植民地で1951年以降に導入された中等教育の修了証明。16歳で受験する基本的な内容のО(Ordinary)レベル、18歳で受験する専門的な内容のA(Advanced)レベルなどがある。)8分の1は学位を持っており、また別の8分の1は大学生であった。さらに別の4分の1は、義務教育後の試験を受けていた。ムーニーは対照群と比較して、成績優秀者の割合こそより少ないものの、より着実な学力を示す傾向がかなり強かった。離脱者は不安定である傾向が最も強く、成績の悪い者の割合は、ムーニーよりも非入会者においてより高かった。ムーニーの半数以上は仕事に就くために必要な何らかの資格を持っており、そのうち半数は専門的な資格だった。」(第8章「被暗示性」より)

比較表161-2

 次に職歴である。櫻井氏の調査対象では、72%が会社員等となっており、臨時職員が5%、学校在籍中が15%である。中西氏の調査対象では、会社員42%に加えて、看護師が21%、教員3%と別のカテゴリーを設けているが、安定した職業についている者が66%であり、アルバイトが8%、学生が16%となっている。職歴の属性に関しては脱会者も現役信者も大きな差はないが、両者に共通しているのは、安定した職業を持っているか、学生だった頃に伝道されている者が大半であり、無職であったり社会的に不安定な状態にあった者が信者になるという傾向にはないということだ。この点もアイリーン・バーカー博士の調査結果と一致する。彼女によれば、修練会参加の時点で失業していたムーニーは3%に過ぎなかったという。

 結論としては、学歴と職歴において脱会者と現役信者の間には有意な差は存在せず、どちらも平均的で一般的な学歴と職歴を持つ人が統一教会に入信したと言うことが可能であろう。このことは、特に学歴が低くて無知であるとか、職業に就いたことのない社会不適合者であるといった特殊な傾向を持つ人ではなく、ごく普通の人が統一教会の信者になるのだということを物語っている。

 中西氏のデータで特筆すべき点は、学歴における看護学校卒業生の割合と、職歴における看護師の割合の高さであろう。在韓の現役信者ではこれらの数値はいずれも21%に上る。看護師は女性の職業として代表的な職種であると言えるが、「為に生きる」職業の代表であるという側面もある。統一教会に入信するような人は、基本的に人の為に生きたいという奉仕の精神を持った人であるということを反映しているのかもしれない。教師3%というのも、「子供たちのために」という奉仕の精神を特徴とする職業である。

 アイリーン・バーカー博士は、ムーニーになりそうな人の特徴の一つとして、奉仕、義務、責任に対する強い意識を持ちながらも、貢献する術を見つけられないことを挙げている。彼女が出会ったムーニーの中には、もともと看護師や教師だった者がいた。しかし、理想主義的な性格の強かった彼らは、そうした他者に奉仕する職業の中でも幻滅や欲求不満を感じていたというのである。例えば、看護師だったムーニーの何人かはバーカー博士に対して、医療関係の仕事では患者を「全人格」として見ることができないと感じたとか、「私たちに期待されていたのは、病気を治療することだけだった。何がおかしいのかという根本原因を、誰も尋ねようともしなかった」と語ったと言う。

 また、教師をしていた別のムーニーは、自分が道徳の面で子供たちの役に立つことができないと感じ、親もまた子供たちの学校の成績にしか関心がないのを見て幻滅したという。そこで彼女は教師を辞めて養護施設で働くことにしたのだが、自分たちは社会の過ちの結果を処理しているだけで、問題の核心を扱ってはいないことを知ったというのである。教育は彼女の夢の職業であったため、それを辞めるときには人生の目標を失ったような気持だったが、そうしたときに統一原理に出会い、長年探し求めていた答えを見つけ出したと感じて入会を決意したという。

 統一教会信者がもともと「人の為に生きたい」という理想を持っており、それを実践するような職業にいったんは就くのだが、そこでもその理想を実現できないので、それを教会の中で実現しようとするというあり方は、洋の東西を問わず、一つの典型的なあり方であると言えるだろう。

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