ジェームズ・グレイス「統一運動における性と結婚」日本語訳63


第7章 分析と発見(6)

 平均的な統一教会信者にとっては、家族としての生活とそれに伴うすべての受容、暖かさ、安心感があまりに主要な関心事であるため、彼らは統一運動の権力構造に対してはほとんど意味を見出さない。また彼らは一般的に、ヒエラルキーの性質、国家及び州レベルにおけるその機能と、その決定の多くの健全性について決してよく知っているわけではないであろう。この件に関する私の観察は、ジェームズ・ベックフォードの英国における統一運動に関する報告と一致する。
「イギリスにおける統一家族のメンバーは通常、世界的な運動の組織構造については非常に貧弱な知識しかもっていないし、自国における職員と権威の分布に関しても非常にぼんやりとした理解しかしていない。確かに、統一家族のリーダーたちはこの組織の骨格構造を偽装し、その公的な重要性を軽視するために苦心している。彼らはグループ内におけるあらゆる関係は個人的で、暖かく、いかなるヒエラルキー的な意味における構造も持たないという見解を広めるのを好む。したがって、『一体感』がグループのイデオロギーにおいて鍵となる構成要素なのだが、実際には権力と権威の配分における明確な差別化という現実を隠しているのである。」(注33)

 私の分析にとっては、この時点で統一運動の官僚制度の性質、特にさまざまな献身のメカニズムを実行する能力に関連する側面について記述することは不可欠である。以下の表は、アメリカにおける統一運動の概略である。

第7章(6)の図

 ブロムリーとシュウプは、彼らの資源動員理論の視点からの統一運動の研究に基づき、その組織形態を「制限された官僚制度」と特徴づけた。それは、その性質そのものにより、本当に重要なのは信仰者の共同体であるという平均的メンバーの考えを強化する傾向にある。(注34)この著者らは、理想的社会を築く方法に関する文師の継続的な啓示のゆえに、いかなる統一運動の職務であろうと取り下げられたり、新しい一連の優先事項に取って代わられたりするか分からないと記している。さらに、いかなる個人も組織上の地位を3年以上にわたって占有することを許されていない。またさまざまな地位のリーダーたちが、統一運動の日刊紙であるニューズワールドの編集者がニューヨーク市の街角で新聞を売ったりするように、最前線の活動に参加するためにしばしばその公式的役割から降りている。(注35)最後に、統一運動の官僚制度は非常に少ない永続的スタッフによって機能しており、(注36)これが構造的成長の初期の官僚主義的傾向と、機能の明確化が進むことによる差別化と闘う組織の能力の主要な要因となっている。
「統一運動は最小限の永続的スタッフを維持し、・・・そして特定の仕事にマンパワーを提供し、永続的なスタッフによって緩やかな監督を受ける一時的な特別委員会を作ることによって、この流れに抵抗した。そのような委員会のメンバーは統一運動のいかなる部局からも引っ張ってくることが可能であろう。・・・このようにして、プロジェクトは実行可能であり、彼らをコーディネイトする少数の永続的なコアスタッフのみによって資源は動員されるのである。」(注37)

 国家会長の事務所は主として行政的役割があり、統一運動の事業と宗教的な事柄を運営しているとみられる。一方で文自身と影響力のある彼の長老会議は支持を与え、グループの重要な政策決定を行う。このカリスマ的指導者と長老たちは、メンバーたちからは神の啓示の伝達者であるとみなされており、官僚組織の一部であるとはみなされていない。これらの先人たちが韓国における統一運動の草創期にいかに戦い、苦労し、そして最終的に勝利したかに関する伝承的な物語は、平均的なメンバーが自分自身を彼らと重ね合わせる能力を高める傾向にある。

 統一運動の制限された官僚制度がこの研究に対して持つ意義は、それが階層構造としては比較的見えにくいことにある。永続的なスタッフが少数であることにより、資金調達と伝道のほかに統一運動のためになさなければならない多くの仕事はメンバーたちの犠牲的な努力によってなされなければならない。さらに、リーダーたちがしばしば非公式的な役割を担うことにより、彼らは最前線で同僚たちと隣り合わせになることとなる。そして最後に、「上から」くる決定はほとんど常に解釈されるが、それは実用的で堅実なものではなく、本質的に霊的で摂理的なものである。

 組織的にみて、そのような「控えめな」ヒエラルキーは、運動のために二つのことを実現している。それは、グループが官僚主義的な成長と硬化をほとんど伴わずに多くの必要な仕事を成し遂げることを可能にし、メンバーたちの間に、統一運動がそうであると主張しているもの、すなわち、神を中心とした家族であるという考えを永続させる働きをする。献身の問題に特に関係があるのはこの後者の機能である。なぜなら、私が明らかにしたメカニズムは、メンバーたちが強い親族意識とお互いの同一性の感覚を持っているグループにおいてのみ、よく機能するようなものだからである。これらの固有のメカニズムが、ものみの塔聖書冊子協会のような、権威構造が階層的で非常に可視的で硬直しており、メンバーと信者たちの関係が普通は法律尊重主義的で形式的なやり方で営まれる組織において、首尾よく実行されるというようなことはほとんどありそうもない。
「証人たちの『横的な』関係は、権威関係の著しく『縦的な』次元に、意図的に従属させられている。ものみの塔運動は、・・・その形式においては『大衆』組織のそれに非常に近い」(注38)

(注33)ベックフォード『セクト組織の二つの対照的なタイプ』p. 77。
(注34)ブロムリーとシュウプ『アメリカにおけるムーニー』 pp. 135-138。
(注35)前掲書、p. 190。
(注36)「1978年の夏の時点で、全国本部には二十数名以下の永続的スタッフしかいなかった。」 (前掲書、p. 136)。
(注37)前掲書
(注38)ベックフォード『セクト組織の二つの対照的なタイプ』p. 75。

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