ジェームズ・グレイス「統一運動における性と結婚」日本語訳62


第7章 分析と発見(5)

 文師がそのようなカリスマ的人物であることは疑念の余地がなく、彼の人格と超人的であるとみなされているその資質は、ほとんどの統一教会信者のグループに対する継続的な献身において重要な要因となっている。完璧なマッチングを行う能力があると彼が主張していることは、確かに統一運動のカップルたちが彼らの結婚をうまくいかせようと熱心に努力する動機付けとなっている。彼の力は絶対と言ってもいいくらいで、多くのメンバーたちが日々の生活の困難とグループの中に生じる葛藤の両方に耐えることができるのは、主として彼の故なのである。後者に関しては、現在見受けられる最も重要な葛藤は極東とアメリカの代表の間の葛藤である。これら両方の聴衆にアピールする文の能力が無かったら、この東西の勢力争いは疑いなくグループ内の公然の論争として表面化し、修復不能な分裂に至るかもしれない。それが文の故意によるものなか否かは別として、より多くの国際結婚(とりわけアメリカ人と東洋人)を作り出そうという彼の努力によってもたらされる結果は、この内的葛藤を克服し、それによって彼自身のカリスマ的重要性をグループ全体に拡大させることであるように思われる。それはカンターが「制度化された畏怖」の形成と言っているプロセスである。(注31)

 カンターの成功した共同体は、彼らの創設者のカリスマ的重要性を越えて先に進むことができた。彼らにとってはグループそのものがカリスマ的になった。統一運動は、1981年に文師が彼の21年路程を完了し、グループにおける「公的な」役割から引退することを公表したという点において、新しい社会運動としての発展の決定的な瞬間にある。61歳でいまだに頑強で健康であるため、彼は間違いなくしばらくの間は組織全体に対する相当な影響力を行使するであろう。しかし、グループがこれ以上の東洋とアメリカの論争を避けるためには、祝福家庭、特に国際祝福を受けた者たちは、夫婦一体の模範を示すだけでなく、グループを一つにまとめることのできるリーダーシップの力を提供しなければならないであろう。このプロセスは、影響力のある日本人女性と結婚したアメリカ人であるモーゼ・ダースト(訳注:この部分は間違いで、ダースト夫人は韓国人である)をアメリカの組織の会長に指名したことによって、既に始まっているように見える。他の国際カップルがグループの団結につながるリーダーシップの役割を果たすようになるか否かはまだ分からないが、統一運動における制度化された畏怖の創造は、その結婚の実験がさまざまな組織のニーズとの関係においてどのように機能するかによって大きく決まるであろう。

 リーダーシップとグループの力に関する疑問に加えて、カンターは成功したユートピアにおいては、4つの決定的な特徴を有するイデオロギーを信奉する結果として、超越が形成されたと指摘している。
1. 超越を引き起こす教義は現在の力の秩序を説明し、目前に迫った広範な世界の変化を約束する。
2. その教義における考えは、その真の意味が選ばれた少数者によってのみ知られているという点で排他的である。
3. そのイデオロギーは、新しい時代の到来が単なる可能性ではなく不可避なものとなるよう、グループを何か力強く成功したものと結びつける。
4. 超越を含むイデオロギーは、包括的であるとともに個別的である。(注32)

 統一運動の神学はこれらの特徴を全て共有しており、われわれはこの研究の中でグループの性と結婚に対する方向性の正当化にとってそれが如何に重要であるかを見てきた。禁欲の期間は堕落の教義によって是認されており、三日行事を通して行われる夫婦の性交はカップルの神聖な行為としての信仰と結び付けられている。神学的には、第二祝福としての結婚は救済論的であると共に終末論的な出来事であり、前者においてはそれは個人が完全な救済を得るために不可欠であり、後者においては統一原理によればそれは世界の復帰の要となるものである。

 われわれは、統一神学は基本要綱に関しては明確で完全であるものの、リーダーシップによって霊感を与えられた解釈や、運動がアメリカで発展するときに不可避的に訪れる変化を包摂するためにグループがその聖なる天蓋を拡大することを可能にするような「新しい」洞察の発展を許容し得るほどに曖昧であることを指摘してきた。この曖昧さはすでに、統一運動における多様な性的役割分担の理解や、マッチング・祝福・聖別・家庭出発から、マッチング・聖別・祝福・家庭出発への結婚の順序における重要な変化へと導いた。グループの組織的中心が米国に留まるのであれば、長い目で見れば統一神学の性と結婚に対する理解は次第にアメリカ文化の影響を反映するようになるだろうと予測することは合理的である。

 これまで私はユートピア的共同体に関するカンターの調査を、統一運動における献身のメカニズムを明らかにするための鍵として用いてきた。これらのメカニズムの多くがこの運動の性と結婚に対する理解を反映していることは明らかであるが、それと同時に、メンバーとグループの関係を強化するのに役立っているのである。構造レベルにおける分析を完全なものとするためには、単に献身のメカニズムを明らかにすることを越えて、この特定の組織がなぜ、そして如何にこれらの個別の構造を効果的なやり方で実行することができるのかを説明することが必要である。これを行うためには、最初に宗教的団体または任意団体としての統一運動に関するある程度の一般的な観察を提供する必要がある。

 組織的に最も顕著な統一運動の特徴は、共同体または拡大家族として存在していることである。その仮想の親族ネットワークの中で、メンバーたちは兄弟姉妹として共に生き、共に働き、その最も重要な忠誠は神と彼らの真の父母である文師夫妻に向けられている。メンバーたちがさまざまな世界の救世主としての役割を担うのはこの統一された家族の一員としてであり、それはグループに対する献身を内面化する上では非常に重要である。家族のメンバーとして生活を共にする中で、最初は単なる服従だったものが最終的には統一運動とその世界変革の理想に対する個人的な献身になるのである。理想的な神を中心とする「家族」であるという自覚が、メンバーに究極的な重要性を有する社会的現実(宗教的な用語では、終末論的共同体)に参加しているという感覚と、個人的な自由の感覚を与えるのである。後者に関しては、メンバーたちは一般的に彼らが統一運動に関わっていることを、彼らの入教以前の生活を特徴付けている束縛状態とは際立って対照的に、一つの解放感を覚える経験として認識していることが重要であると私は思う。同様に重要なのが、この自由は共同体に参加することを通して得られるということだ。

(注31)カンター『献身と共同体』p. 116。
(注32)カンター『献身と千年王国運動の内的組織』、pp. 240-241。

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