ジェームズ・グレイス「統一運動における性と結婚」日本語訳44


第5章 祝福:準備とマッチング(13)
 
 第二に、統一教会のリーダーシップが個々のメンバーの生活に及ぼす力と影響力は、メンバーに結婚の準備が出来ていると認定されるプロセスによって疑いなく強化されている。1979年のマッチングにおいては臨時特別委員会がメンバーの資格の有無を決定したが、メンバーにマッチングと祝福を受ける資格があるか否かは、地方のリーダー(「中心者」)が決定するというのが一般的なパターンであった。事実、一部のリーダーがこの特権を公平に行使することができなかったというのが、祝福委員会が設立された理由の一つであった。結婚するためにはリーダーの承認が必要なメンバーは、より多くの時間と努力を彼らのさまざまな使命に投入する傾向にあった。そして、カンターが言ったように、「われわれは、メンバーの報酬が努力の投入を通してグループの成功と固く結びつけられているような運動において、より強固に献身的なメンバーを発見することができるであろう。」(注75)

 第三に、1979年に実施された順番の変化(マッチング→祝福→聖別→家庭出発からマッチング→聖別→祝福→家庭出発への変化)は、その摂理的な意味がどうであれ、グループがその結婚に対するアプローチを西洋文化の支配的なパターンに順応させることを可能にしたのである。その変化はまた、「放棄」(それは片方のパートナーが運動を離れたときに起きる)あるいは男性と女性の極端な性格の不一致によって壊れたマッチングを無効にする(破棄する?)機会を提供する。(注76)

 第四に、マッチングと祝福を受けた個人は、とりわけ未婚の兄弟姉妹たちの目から見て、グループの中における新しい地位を獲得する。また、結婚することはヒエラルキーの中でメンバーが中心的な指導者の地位に上がって行くための事実上の前提条件である。

 第五の検討事項は明らかではあるが、重要性において劣るわけではない。少なくとも三年間で初めて、マッチングを受けたメンバーは他の人間と恋愛感情を自由に育てることができ、その関係は理想的には結婚における積極的な性生活に最終的に至るのである。調査によれば、恋愛関係に対する欲求は未婚のメンバーの間で相対的に強いことが明らかになった。(注77)マッチングを受けることがこの欲求を満たす機会を提供するのである。実際、第6章で見るように、多くのメンバーが家庭出発の前に不可避的に恋愛感情が育つものであると仮定している。メンバーたちは一般的に運動に対して深く感謝しており、特に彼らにこの機会を与えてくれたことを「お父様」に感謝している。

 最後の検討事項は、マッチングのプロセスを認可する、神学的、神秘的、結果的という三つの様式からなる正当化と関連している。自国における統一運動の研究に数年間を費やしたイギリスの社会学者アイリーン・バーカーは、「統一神学は権威を正当化し、許容可能な性格と行動の範囲を明確に分類して定義し、グループと個人の目標を表現する世界観の提供を通して、グループの構造を維持する上で肯定的な機能を果たすように機能している」(注78)と論じている。これはマッチングと関連する神学においては、とりわけ真実である。その手続きがもつ事実上すべての詳細とニュアンスが、何らかの形の霊的な意味に満ちている。例えば、文師の1975年における3600人のマッチングは、わずか2時間ほどしかかからなかった妙技であったが、外部の者には気まぐれな大衆扇動の表現に見えたに違いない。ところが、その出来事に参加したメンバーは自身のマッチングに対する文師の自己評価に強く同意するであろう。「お父様には、恣意的な気持ちは一切ありません。お父様にとってはすべてが原理通りに動いているのです」(注79)グループのイデオロギーは、なぜ最初にマッチングを受けた人から拒絶される人も存在するかについての説明または正当化さえも提供する。
「人が不規則で奇妙な性格を持っていればいるほど、彼の相対者として理想的な人を探すのは難しくなります。真の父母様(実際には文師)は彼の性格を様々な角度から考慮し、この性格やあの性格を補完するような結婚相手を探さなければなりません。」(注79)

 この発言が示唆するように、統一思想による正当化の可能性は事実上無限であるように思われる。(注80)

 グループの結婚へのアプローチの正当化は、マッチングの儀式に連動して起きるさまざまな種類の特別な霊的経験の中にも発見することができる。最後に、メンバーたちは彼らの結婚の実際によって結果的な承認を見いだす。すなわち、運動の中で縁組みされた結婚がうまく行っているとみなされているということだ。ここで彼らは年長の祝福家庭にみられる霊的な成熟や幸福、非常に明るくて健康な子供たち、そして運動における極端に低い離婚率を指摘する。(注81)

 これら6つの求心的な要因が信仰の維持とグループの結束にとってプラスに働くことは、われわれの調査データによって強く裏付けられた。しかしながら、このグループの結婚に対するアプローチは、ときにはメンバーの献身を妨げるような二つの求心的要因によって特徴付けられる。その一つ目は、マッチングの前に生じる恋愛感情である。グループの宗教的理想と社会構造は、独身メンバー間に排他的な関係が発展するのを強く阻止するようなものであるが、証拠が示しているのは、恋愛感情に基づく二人の結びつきはしばしば実際に起きているし、それが起きたときには、ある人が(「恋愛的には」)誤った人とマッチングされたケースのように、運動にとって厄介なことになるのである。われわれは第6章において、そのようなミスマッチがいかに扱われるかを示すであろう。

 機能不全をもたらす第二の要因は、結婚をより大きな共同体の家族的な全体性に対する潜在的な脅威であるとみなしているメンバーも存在するという事実に宿っている。この認識がオークランド・ファミリーにおいては明らかであるであることは既に報告した。同じような懸念が、「ほとんどのメンバーが彼らの結婚と家庭の形成を、義務である三年間を超えて延期することを予測した」(注82)ことを示した最近の調査におそらく反映されている。マッチングされる以前でさえ、メンバーたちはいかに結婚というものが宗教的共同体全体に対する彼らの献身を脅かし得る、二面性を持つものであるかということに気付いているのである。

 本章においてわれわれは、マッチングの儀式への準備と参加が、統一運動の「包括的サブカルチャー」に対する個々のメンバーの関与と献身を強化する上で助けになることを見てきた。恋愛感情と強力な共同体主義的な先入観は、その包括化プロセスを弱体化させる可能性があるけれども、圧倒的大多数のメンバーは夫や妻としての彼らの新しい役割を、運動の終末論的な志向性のまさに中心をなしている世界の救済者としての役割と統合することに成功している。

(注75)ローザベス・モス・カンター「至福千年説を信じる運動における献身と内的組織」『米国行動科学者』(16号、1972年)、p.229。
(注76)性格の不一致を理由にマッチングを破棄するのは非常に例外的なケースのみである。面白いことに、ほとんどのメンバーがそんなことはあり得ないと信じている。
(注77)ブロムリー、シュウプ、オリバー『完璧な家族』p.123。
(注78)アイリーン・バーカー『統一原理を生きる』p.78。
(注79)郭錠煥牧師『理想家庭になる』p.35.
(注80)アイリーン・バーカーは統一神学は統一運動の中で本質的に独立した変数として機能していると論じている。これはある程度は真実であるが、ひらめきを与えられた実践的なリーダーが変化を正当化したり、グループの現在進行中の生活の中で生じる問題に対処するために変形できる「パテのように変幻自在の」性質を有するという意味において、それは依存した変数でもある。
(注81)この要因は第6章において扱われるであろう。
(注82)「25%がもう一年間待つことを期待し、23%が二年間待つことを予期し、35%が結婚前に三年間過ごすことを期待した。そして19%が三年以上待つことを予期した。」ブロムリー、シュウプ、オリバー『完璧な家族』p.123。

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