書評:櫻井義秀・中西尋子著『統一教会』102


 櫻井義秀氏と中西尋子氏の共著である『統一教会:日本宣教の戦略と韓日祝福』(北海道大学出版会、2010年)の書評の第102回目である。

「第Ⅱ部 入信・回心・脱会 第六章 統一教会信者の入信・回心・脱会」の続き

 第100回から第六章「五 統一教会の祝福」に入り、過去二回にわたって①写真マッチング、②約婚式、③聖酒式、④結婚式(祝福)、⑤蕩減棒に関する櫻井氏の記述を分析してきた。今回はその続きで、⑥聖別期間について扱う。

 櫻井氏は⑥聖別期間に関する説明で、「四〇日間を聖別期間として別居する(家庭を持つ前の準備を行う)のが本来の決まりである。しかも、祝福の相手はその場で初めて会った相手であることからいろいろな問題が生じてくるとして、さらに三年間を独身の状態で信仰生活を継続することが求められる。この期間は、韓国人男性と日本人女性の組み合わせの場合は、韓国人男性の霊的優位が認められてこれほどの期間をおかずに韓国で結婚生活に入ることもある。」(p.304)と記述している。ここにも誤解や説明不足が含まれているので細かく分析して行きたい。

 まず、統一教会の信徒が結婚式を終えた後に40日間の聖別期間(すぐに新婚初夜を迎えるのではなく、お互いに純潔を守って家庭出発の準備をする期間)を持つというのは、教義的な根拠を持つ原則である。したがって、これに関しては国や民族の違い、あるいは個人の抱える事情などに起因する差異は存在しない。誰もが40日の聖別期間を通過するのである。しかしその40日を超えた後に、具体的にいつ家庭を出発するかに関しては、時代により、国により、個人の事情により異なるというのが実際である。

 この問題は、マッチングによって相対者が決定してから家庭を持つまでの期間という観点まで含めて考えた場合にはより複雑になり、中にはマッチングを受けてから家庭を持つまで10年を要したというカップルも存在するのである。祝福について研究を行った米国の宗教社会学者ジェームズ・グレイス博士は、著書『統一運動における性と結婚』において、アメリカにおける祝福のプロセスが変化したことを以下のように分析している。

 1978年までのパターンは、①マッチング、②祝福式、③聖別、そして④家庭出発というものだった。しかし、文師は1979年に新しいパターンに着手し、そのとき資格のあるメンバーはマッチングを受けたが祝福式を受けなかった。これらのカップルはその後は聖別をし、1982年の式典で祝福された。この新しいパターンは、①マッチング、②聖別(これを「約婚」と呼ぶアメリカのメンバーもいた)、③祝福式(その後に絶対的で摂理的な40日間の聖別が続く)、そして④家庭出発という順序に従う。グレイス博士は、この新しいパターンは、結婚の前に婚約期間を置くという伝統的なアメリカの慣習に運動が適応したのではないかと分析している。

 このマッチングと祝福式の間に時間を置くというやり方は、日本では1610双のマッチングと6000双の祝福式の関係が有名である。1978年9月22日に日本で1610双のマッチングが行われたが、彼らが祝福式に参加したのは1982年10月14日の6000双の祝福式の時であり、実に4年間も祝福式まで待ったことになる。しかし、マッチングから祝福式までにこれほど長い期間を置いた例はその後には見られない。私が祝福を受けた6500双ではマッチングはまさに祝福式の直前であったし、その後の祝福式においてもマッチングから祝福式まで1年以上待ったという例は聞かない。したがって、これは1970年代後半の特別な状況ではないかと推察される。

 さて、櫻井氏は祝福後の40日の聖別期間を過ぎた後でも、さらに3年間を独身状態で信仰生活を継続することが求められ、その理由は祝福の相手とはその場で初めて会ったばかりなので、いろいろな問題が生ずるからであるとしている。ここにも誤りがある。まず40日の聖別期間を過ぎた全員がさらに3年間の独身生活をするわけではないし、家庭出発を遅らせるのは必ずしもカップルの相性の問題が理由ではない。実際には、40日の聖別期間は普遍的なものだが、家庭を出発するまでにその後どのくらいの期間を置くかは、さまざまな理由や事情によって異なってくるのである。

 実は最も重要な理由は年齢である。統一教会では結婚したら子供を生むことが奨励されているので、祝福を受けた時点でカップル(特に女性)の年齢が高い場合にはできるだけ早く家庭を持つことが奨励される。女性の妊娠適齢期は限られているからである。この点に関する方針は万国共通である。逆に、カップルの年齢が20代の前半である場合には、お互いが精神的にさらに成長するためという理由とともに、お互いを人間としてもっとよく知るために、家庭出発までの期間が長くなる場合が多い。

 次に、家庭を出発するために満たすべき条件に関しては、国ごとに方針や基準が異なるということはあるだろう。日本においては、家庭を出発する前にまず個人路程を勝利しなければならないという考えが強く、修練会に出たり、実践活動をしたりといった様々な条件が求められ、結果として家庭出発の時期が遅れる傾向があった。これは「祝福家庭とはかくあるべき」という理想が高いためにそうなったという側面と、より現実的には独身のマンパワーをできるだけ多く確保するという組織的な理由の両側面があったように思われる。日本の統一教会には、天の祝福を受けたとはいえ、家庭に関することは私的なことで、教会のために奉仕することが公的なことであるため、より公的な目的のために家庭を犠牲にすることが美徳と考えられる傾向は確かにあった。

 日本人と韓国人が祝福を受けた場合、こうした日本固有の祝福に対する考え方を理解できないために、韓国人の側に不満が生じるということはあったであろう。その際の現実的な処理の方法として、韓日カップルの場合には日本人同士のカップルよりも少し早めに家庭出発を許可するということはあったと思われる。しかしそれは、櫻井氏の言うように「韓国人男性の霊的優位」が理由なのではなく、カップルの幸せのために現実的な判断をしたという方が妥当である。

 櫻井氏はこの聖別期間に対して、家庭を持つことを待たされるというネガティブな評価しかしていないが、実際に祝福を受けたカップルに対する聞き取り調査を行ったグレイス博士は、この聖別期間が宗教的な意味を持つ肯定的なものとして個々のカップルに受け取られていることを明らかにしている。彼の分析によれば、マッチングを受けてから家庭をもつまでの聖別期間は、共同体の価値観を夫婦生活にいかに活かしていくかという「翻訳作業」を行う期間であり、これによって共同体の価値観が結婚という場に結実するのだという。すなわち、それまで個人的に積み上げてきた信仰を、家庭生活という場でどのように実らせるかについて、カップルが話し合って準備する期間だというわけだ。

 家庭をもつまでの聖別期間は、メンバーにとって多くの意味をもっている。その内の一つに地上天国実現というより大きな目的のために捧げる「犠牲」であるという意義づけがある。すなわち世界の救済のために自分自身を捧げるのである。さらにそれは、神を中心とする家庭を築くための基礎固めの期間であると意義づけられている。すなわち、この期間、自己犠牲的な奉仕の生活をすることにより、自己の精神的・情緒的成長をはかり、理想的な家庭を築くための準備をするのである。

 これに加えてグレイス博士は、極めて現実的な意味合いとして、聖別期間は、多くの場合、結婚する直前まで見知らぬ同士だったカップルが、文通などを通してお互いをよく知り合う期間として機能していると分析している。とりわけ言語や文化の異なる国際カップルの場合にはこの期間は重要であるという。

 グレイス博士が多くのメンバーと接して得た印象としては、統一教会における結婚は永遠のものであるため、聖別期間にあるカップルはお互いにより良い関係を築くことに対して真剣であるという。この期間のカップルの交際の手段として最もポピュラーなのが文通であり、その内容はいわゆるラブレターというよりは、お互いが今まで歩んできた人生の紹介や、信仰的価値観に基づいて将来どのような家庭を築いていくかという理想を語り合うものが多いという。多くのカップルの証言によれば、お互いに対する恋愛感情はこの聖別期間中に徐々に芽生えるという。神の目から見れば自分たちは夫婦であると認識してはいるものの、この期間におけるカップルの交際は、とりわけ身体的接触という点に関しては非常に制限されている。このようにして聖別期間を通じて育まれた二人の愛は、やがて三日行事を通して実体的に結実し、一つの家庭を形成するようになるのである。

 こうしたグレイス博士の分析は、日本の祝福家庭にもほぼそのまま当てはまる。聖別期間は単に家庭出発を待たされている期間なのではなく、お互いの成長と関係性の構築という積極的な意味を持っているのである。

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