書評:櫻井義秀・中西尋子著『統一教会』101


 櫻井義秀氏と中西尋子氏の共著である『統一教会:日本宣教の戦略と韓日祝福』(北海道大学出版会、2010年)の書評の第101回目である。

「第Ⅱ部 入信・回心・脱会 第六章 統一教会信者の入信・回心・脱会」の続き

 前回から第六章「五 統一教会の祝福」に入り、①写真マッチング、②約婚式、③聖酒式に関する櫻井氏の記述を分析する作業を終えた。今回はその続きである。

 櫻井氏は④結婚式(祝福)に関する説明で、「文鮮明夫妻を主礼として迎え入れ、聖水と祝禱を受けた後、新郎新婦で指輪の交換がなされ、万歳三唱のうちに終わる。」(p.303)と記述している。重要な儀式の式次第の説明としてはあまりにも簡素な表現だが、実は重要な構成要素を抜かしてしまっている。それは「成婚問答」である。これは神の創造理想を完成するために、永遠の夫婦となることを神様と真の父母様の前に誓う儀式であるが、主礼の問いかけに対して、「イェー」(韓国語で「はい」の意味)と肯定の返事をする形式で行われる。「成婚問答」で主礼が問いかける内容は歴史と共に変化してきたようだが、私が受けた6500双の時の「成婚問答」は以下のような文言であった。
 一、君たちは本然の善男善女として、天の法律を守護し、万一失敗があるならば、自分たちが責任を執ることを宣誓しますか。
 二、君たちは神様が喜ばれる理想的な夫婦として、永遠なる家庭をつくることを宣誓しますか。
 三、君たちは天の伝統を受け継ぎ、永遠なる善の父母として、家庭と世界の模範となる子女を養育することを宣誓しますか。
 四、君たちは理想的家庭を中心として、社会、国家、世界、天宙の前に愛の中心者となることを宣誓しますか。

 6500双の時は、この成婚問答に続いて、以下のような「成婚宣布」がなされた。
「1988年10月30日、6516双が、神と真の父母と、世界と天宙の前に、成婚が成立したことを宣布します。」

 このことから、結婚式がもつ重要な意義は、新郎新婦が永遠の夫婦となることを神様と真の父母様の前に誓い、主礼が結婚の成立を宣言することにあることが分かる。にもかかわらず、櫻井氏は「マスメディアで報道されるのはこの場面だけだが、祝福の実質的な意味は、聖酒式と後に述べる三日行事にある。」(p.303)などという知ったかぶりの解説を行い、あたかも結婚式が対社会的なセレモニーでしかないかのような物言いをしている。

 こうした櫻井氏による結婚式の意義づけは誤りである。確かに聖酒式と三日行事は祝福の一連のプロセスにおいて重要な意味を持っているが、結婚式の意義がそれに劣るものであるということにはならない。結婚式は祝福を構成する重要な一つの要素として、欠くことのできないものである。その原理的な意義は、聖酒式によって神様の神聖なる子女として生まれ変わった男性と女性が晴れて本来の結婚をするということなのである。したがって、聖酒式の後に結婚式が行われなければならないし、結婚が成立しない限りは「床入り」に当たる三日行事も行うことはできない。それぞれに固有の意味があるため、その順番を逆転させることはできないし、個々のプロセスを省略することもできないのである。

 聖酒式も三日行事も人間の堕落によって必要となった蕩減のための行事であるが、結婚式は創造原理的な意味を持つ行事である。本来、人間始祖アダムとエバが堕落していなければ、成長期間を通過した後には神の下で結婚式を挙げて創造本然の家庭を出発するはずであった。しかし、アダムとエバの堕落によりそれが出来なくなったので、統一教会ではそれを蕩減復帰して「真の結婚」をするために合同結婚式を行ってきたのである。したがって、それ自体で宗教的意義を有するものであり、世間一般やマスコミに対するアピールのためにやっているのではない。

 私が参加しが6500双祝福式の時には、「主礼の御言」というものが語られており、その中にこの結婚式の意義と、それに臨む者の心構えが文鮮明師によって示されている。それをいま改めて読むと、新しい人生の門出に立つカップルに対して与えてくださった貴い訓示であることを感じざるを得ない。少し長くなるが、私の人生にとって重要なスピーチであるため、ここで紹介したい。

※6500双祝福式での主礼の御言※

 生命と愛と喜びの源泉としての幸福で、義なる真の家庭を培い、確立するということは、実に神様と人間の歴史的な願いでした。そのような観点から見ると、皆さんがきょう、神様を中心として夫婦の良き契りを結び、成婚式をささげることができるのは、本当に誇るべきことであり、喜ぶべきことであると考えます。
 本来、夫婦というものは、真の愛によって結ばれた一心同体の存在であり、約束する伴侶の関係であるがゆえに、愛の本体であられる神様を中心としなければ、理想的な愛の家庭を興すことはできないのです。
 私たち統一教会の新郎新婦は、正しくこの神様の愛を中心として結ばれた夫婦であり、神様の愛と真理を基盤とした家庭を作り上げるとき、愛と幸福と平和の世界が現れるのです。

 神様は、長い受難の歴史を克服して、人類を一つに束ねる勝利の基盤を整えてこられました。すでに、私たちは、ソウルオリンピックを通して、東西が和合して、全人類が地球村として一家族を成す様相を見ることができます。国境と、血統と、歴史的感情や思想を超越して、一つの世界を指向する外的な摂理の基盤の上に、人類の霊魂と精神を一つに束ねる内的な摂理としての、「世界文化大祝典」を、1990年から3年ごとに開催することを宣布することによって、世界統一国家たる人類大家族主義の社会が到来しているのです。

 玄界灘を越えて、共に手を取り合って茫々たる大海に出帆する新郎新婦の皆さん!

 きょうまで、全世界の耳目が、私たち統一教会に集まってきました。しかし、今からは皆さんと皆さんの家庭に一層視線が注がれるようになるでしょう。それゆえに、皆さんは全生涯を通して次の三つの事柄を特に心に銘記しなければなりません。

 第一に、祝福を受けた夫婦は、永遠に一つにならなければなりません。皆さんの結婚は、「死が私たちを引き離すときままで」というのではなくて、永遠に共に行くのです。真の幸福というものは、永遠に変わらない愛の夫婦によってのみ成り立ち、また享受することができるのです。きょうの新郎新婦の皆さんは、今から皆さんの家庭に、神様の愛を実現することによって、神様に侍り、私たち人間世界に神様をお迎えするようにしなければなりません。

 第二に、家庭的な愛の伝統を確立しなければなりません。この理想的な結婚をした後には、公的な約束を守って、子女たちを原理的にも、道徳的にもりっぱに養育しなければなりません。皆さんは、責任分担と使命を完遂するために、一切の精誠を傾けるばかりでなく、特に子女教育に対して、父母としての責任を果たすことに格別に尽力すべきです。

 第三に、神様の理想世界を建設するために全力を注がなければなりません。天国は、万民が互いに信じ合う、愛で結ばれた心情の世界であります。霊的にも、肉的にも、空虚と困ぱいと苦痛がある限り、真なる天国は実現されません。皆さんはすべて、神様の愛を共有する福なる天国を建設する天国の市民として、責任を果たすだけでなく、この伝統と遺産を、皆さんの子女と後孫に相続できるよう、全力を尽くさなければなりません。

 どうか、きょう祝福を受けられた皆さんが、天の模範的な家庭を築き上げるよう尽力してくださることを願っています。

※引用終わり※

 このメッセージから、結婚式に重要な宗教的意義があることと、神を中心とする夫婦の因縁を結ぶことがその中心テーマであることは明らかであろう。

 続いて櫻井氏は⑤蕩減棒について説明しているが、興味本位で書けば面白いかもしれないこの行事の記述において、櫻井氏はどういうわけか深堀りせず、通り一遍の解説で終わっている。この場面を「奇行」「野蛮な暴力」「韓国の土着の文化」という視点で描こうと思えばいくらでも膨らませることは可能なのかもしれないが、それはあまり櫻井氏の興味をひかなかったのであろうか?

 一方、⑥聖別期間と⑦三日行事に関する櫻井氏の記述は多くの問題を含んでいるが、それは次回以降に扱うことにする。

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