書評:櫻井義秀・中西尋子著『統一教会』37


 櫻井義秀氏と中西尋子氏の共著である『統一教会:日本宣教の戦略と韓日祝福』(北海道大学出版会、2010年)の書評の第37回目である。

「第Ⅰ部 統一教会の宣教戦略 第4章 統一教会の事業戦略と組織構造」の続き

 櫻井氏は本章の中で、日本統一教会の本部ならびに地方の組織図なるものを裁判に提出された証拠の中から転載し、それを根拠に「日本の統一教会は資金調達の事業部門が肥大化した特異な宗教組織となってしまった」(p.142)などという解説を加えている。そこで今回は櫻井氏の主張と、それに対する統一教会側の反論を併記することによって、これらの証拠の信憑性について解説することにする。統一教会側の反論内容は、筆者が家庭連合(旧統一教会)の法務局に取材して得た情報を要約・解説したものである。

142ページ

 櫻井氏は142ページの図4-2について、「統一教会の事業部門の組織図(全国しあわせサークル連絡協議会)」というキャプションをつけて説明しており、これを統一教会の組織図であるかのように説明している。もしこの解説が本当なら、統一教会には「事業部門」が存在し、そのトップは古田氏と小柳氏であったことになる。この図は統一教会側の証人である小柳定夫氏が平成7年(1995年)9月8日に作成した証拠であり、乙号証であるため、組織図の内容自体は教会側も認めているものである。しかし、小柳氏はこれを「全国しあわせサークル連絡協議会」の組織図であるとして提出したものであり、同協議会は統一教会とは直接的な指揮命令関係のない別組織であったと証言している。にもかかわらず、櫻井氏はこれを「統一教会の事業部門の組織図」として紹介しており、正式名称である「全国しあわせサークル連絡協議会」をわざわざ括弧書きにして表記している。これは櫻井氏による不実表記であり、大目に見たとしても証拠に対する勝手な解釈の書き込みである。そもそも統一教会には「事業部門」などというようなものは存在しなかったし、古田氏も小柳氏も統一教会の幹部職員になったことはなかった。

144ページ

 櫻井氏は144ページの図4-3について、統一教会の地区組織の一例であると紹介しており、その構造は全国的に画一化されていると説明している。(p.143)具体的には1989年当時の鹿児島地区の組織図であるとされているものだが、「コマンダー」と呼ばれる地区の責任者夫婦の下に、伝道や教育に携わる「教会」と、経済活動を行う「代理店」が統括されているような図になっている。単純にこの組織図だけを見れば、教会の責任者が宗教活動と経済活動の両方を指導していたかのような印象を受けるかもしれない。

 図4-3は、統一教会を相手取った福岡における献金返還訴訟の証人である、元信者のUさんがまとめた「鹿児島地区の組織図」であると思われる。Uさんは「全国しあわせサークル連絡協議会」の鹿児島地区の傘下にあった会社法人で会計を担当していた女性だが、彼女は陳述書および証言の中で、自らの会計業務が統一教会のものであったと主張している。しかしながら、Uさん自身が宗教法人統一教会の職員であったという事実も、宗教法人の会計業務を行っていたという事実も存在しない。こうした事実誤認に関しては、前述の小柳定夫氏が裁判に陳述書を提出して反論している。そもそも、1989年当時の統一教会には北海道教区から九州教区まで14教区があり、その下に62教会があるという体制だったのであり、「地区」という名称の組織は存在しなかった。したがって、「鹿児島地区」という組織は統一教会には存在しなかったのである。

 こうした元信者の事実誤認は、彼らが統一教会と「全国しあわせサークル連絡協議会」の組織を混同し、誤解をしていたことによって起こったか、あるいは連絡協議会の活動に対する法的責任を宗教法人に対して追求しようと試みる反対派弁護士の指導を受けて証言したために生じたものと思われる。いずれにしても、図4-3は教会を離れた元信者が記憶に基いて作成した甲号証であり、統一教会はその内容を否認しているので、統一教会の地方組織の実体を表した客観的な証拠とは言えないものである。

 櫻井氏はこのような誤った統一教会の地方組織図に基いて、「地区にこそ、統一教会信者の成長過程・人生が凝縮されている。伝道と資金調達を一つの組織で行っているのであるが、その証拠は地区組織の人事・資金管理に明らかである。この点を地区教会の会計帳簿から見ていくことにしたい。」(p.145)と主張した上で、図4-6と図4-8を提示する。

146ページ

148ページ

 この「会計帳簿」の入手経路について櫻井氏は以下のように説明している。
「一九九三年、北海道の岩見沢地区において教会の会計帳簿が初めて外部者の目にふれることになった。信者であった妻が、一九九二年に実施された三万双の既成祝福献金を夫に無断で出したが、それを知った夫は教会長に献金使途の明細を見せるよう迫った。教会長は会計名簿を見せたが、夫は短時間で確認できないので借用して自宅でチェックする旨の了解を得た。そして、札幌市にある北海道合同法律事務所において統一教会相手の訴訟を担当している弁護士に相談を依頼したというのが、会計帳簿確認の経緯だった。」(p.145)

 しかし、この会計帳簿の入手経路に関する教会側の主張は、これとはまったく異なっている。件の夫は名前をDさんと言うが、1993年6月15日に当時岩見沢にあった信徒会館「アイカム」に、Dさんから「これから行く」という電話が入った。まもなくDさんが応接室に現れ、「お前ら、そこに座れ、K(会計係)はいるか?」と怒鳴り、いきなり応接室のテーブルをひっくり返し、倒れたテーブルの上に仁王立ちし、応対したTさんを軽く殴りつけ「俺は1億円要求する。」「お前のおかげで俺たち夫婦が大変になった。金取り主義だろう。帳簿を全部見せろ、俺も教会員なんだから帳簿を見る権利がある。」と怒鳴ったという。会計のKさんはDさんの大変な剣幕に顔面蒼白となり、その迫力に押されるようにして応接室の隣の事務室に信徒会の帳簿(祝福献金についてのメモ)を取りに行ったが、Dさんは「遅すぎる」と言って勝手に事務室に入り、Kさんから帳簿を無理やり取り上げ「税務署に持って行き、お前らのやっていることを調べてみる」と言い、近くにあった紙袋にその帳簿を入れ、「明日も来る」と言って帰ろうとした。Kさんは「他の人のプライベートなことも書いてありますので持って行かれては困ります。返してください」と懇願しながらDさんに近づこうとした。しかし、Dさんはそばに来ようとするKさんを足で激しく蹴飛ばし、「訴えられるものなら、訴えてみろ」と怒鳴り、事務室を出て行ったというのである。その帳簿を、Dさんが郷路弁護士に渡したというのが、会計帳簿の内容が外に漏れるようになったいきさつである。このことから、この会計名簿は極めて暴力的で違法性の強い方法で入手されたことが分かる。

 さて、問題の会計帳簿に関して統一教会は、「岩見沢信徒会の会計帳簿であって、教会の会計帳簿ではない。岩見沢の信徒たちは信徒会館(アイカム)を活動の拠点としていたが、上記帳簿はそのアイカムの金銭の出し入れを記したものである。当時、岩見沢には教会はなかったのであり、岩見沢の信者は札幌教会に所属していた。」と主張している。

 そもそも、Dさんがこのような狼藉をはたらいたのは、老後に対する不安が原因であった。そこで岩見沢の信徒たちで話し合った結果、Dさん夫妻が祝福献金として捧げた全額を分割で返金することで和解が成立した。しかし、Dさんの持ち去った帳簿は反統一教会の立場に立つ郷路弁護士に利用される結果となってしまったのである。さらに、1993年7月25日の週刊文春に「統一教会ウラ帳簿をスッパ抜く」と題する記事が掲載された。

 数年後、Dさん夫妻は教会や岩見沢の信徒の方々に当時のことで大変迷惑をかけたと謝罪したので、教会も岩見沢の信徒もDさん夫妻の気持ちを汲み、快く迎え入れたという。以来Dさん夫妻は、教会の礼拝や信徒の集会に参加するようになった。清平の修練会にも2人で喜んで参加し、その後も岩見沢信徒会で熱心に信仰生活の勉強をしたり伝道活動をしていた。2008年1月3日にDさんのご主人が心不全で亡くなり、息子さん、娘さんも参加して、統一教会の昇華式が行われたという。

 このようにDさん夫婦は最終的には神の懐に帰ってきたが、Dさんを経由して反対弁護士の手に渡った信徒会の帳簿は、「統一教会の裏帳簿」と銘打たれて、反対派の宣伝に用いられるようになったのである。櫻井氏の著作に掲載されているこうした証拠は、図4-4も含め、全て信憑性のないものである。そのような証拠に基づく「地区協会の事業運営」に関する櫻井氏の分析内容も、同様に根拠のないものである。

147ページ

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