シリーズ「霊感商法とは何だったのか?」22


霊感商法の教訓(1)

1.営利法人の疑似宗教団体化
 霊感商法の問題は、統一教会にとってさまざまな点で考察や反省を迫るものであった。その一つがシンクレティズムの問題であり、また信徒の団体に対する教会の指導不足という問題であった。これは宗教法人としては最大の関心事であったが、世間一般の関心はもっと別のところにあったのではないかと思われる。それは「信仰と経済活動の結びつき」という問題である。これは宗教団体が商業化していると言われ、新宗教や既成宗教団体がいかにも営利団体であるかのように世間一般から見られているという、現在の一般的な状況からしても重要な問題である。現在、多くの宗教団体が信徒を増やし財を増やしていく巧妙なテクニックを駆使し、いわば非常に効率のいい会社組織のようになっている、との見方がある。そしてこのような状況は宗教本来のあり方から見て疑問であるという声が上がっている。さらに、その中でも霊感商法はその代表格であるかのように言われている。しかし統一教会の立場から見れば、霊感商法は宗教団体が商業化してしまったのではなく、本来は商業を行っていた営利団体が、あたかも宗教団体のような様相を帯びるようになってしまったという現象であった。

 実は何らかの宗教的理念に基づいて企業が経営されるということ自体は珍しいことではない。たとえば、清掃用具の戸別販売で成功したダスキンでは、「祈りの経営」の理念が掲げられ、毎朝、維摩経偈、毎夕、般若心経の「おつとめ」がなされるほか、「はかなきは金銭/たよりなきは地位/人の思惑も苦にせず/ただひたむきに/ざんげの一路を歩み/己を捧げて/報恩の托鉢を致します/合掌」(「ダスキン一家の祈り」)といった言葉が唱えられる。(注1)また、山岸会はヤマギシズムという宗教的な理念に基づいて、養鶏業や農業を営むための共同体を形成している。通常これら二つの事例は、前者が宗教理念に基づいた企業であり、後者は独自の理念に基づいて事業を行っている宗教団体であると分類される。しかし、そこに所属している個人においては、はたしてどちらに重きが置かれているかは意見が分かれるところであろう。(注2)

祈りの経営ダスキン ダスキン一家の祈り

山岸会の実顕地内施設(愛和館)の食事風景

山岸会の実顕地内施設(愛和館)の食事風景

同様にハッピーワールド社やその傘下にある各販社のように、同一の信仰をもつ信者によって形成された企業においては、そこに所属している個人が、自分の行っていることがはたして宗教活動なのか経済活動なのか明確な認識がなされない、ということが起こり得るのである。ましてやその企業の指導者が宗教的な言葉をもって社員を激励すれば、社員の間でますます宗教活動と経済活動の区別がつかなくなるのは当然である。これが壷や多宝塔などの開運商品の販売という経済活動を、あたかも統一教会という宗教法人が行っているかのように誤解する人が、販売員自身の中にも現れた理由である。

 宗教法人は非営利団体であり、その活動の目的は当然のことながら非営利的なところにある。したがって教会維持のためになされる献金は、営利を目的とする商品の販売とは全く次元の異なるものである。一方、ハッピーワールドは営利を目的とする会社法人であり、「連絡協議会」も販売促進を目的とする任意団体に過ぎないものである。ところがこの組織が疑似宗教団体化して統一原理の教えを広め、さらには商品の販売に宗教的な意義付けをしたところに問題の本質があったのである。職業人として、自分の仕事や扱っている商品に対して誇りを持ち、販売活動に邁進すること自体は素晴らしいことである。しかし販売活動に宗教的な意義付けをし、それを個人の「究極的関心」とすることは、信仰を販売に利用するような逸脱行為となる危険性があり、宗教の本質を歪める結果につながりかねない。この辺の指導をハッピーワールドや「連絡協議会」がきちっと行っていたのか、疑問の残るところである。

(注1)Wikipedia「ダスキン」より。
(注2)今防人「ヤマギシ会」(前掲書、『世界宗教大事典』p.1943)

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