Web説教「信仰による家族愛の強化」05


 3月31日から「信仰による家族愛の強化」と題するWeb説教の投稿を開始しましたが、今回はその5回目です。前回は下重暁子さんという人が書いた『家族という病』という本の内容を紹介しました。この本は、「幸せな家族」というのは幻想だ、そして「家族は素晴らしい」は欺瞞だということを主張した本なのですが、よく読んでみれば、下重さんは本心では家族とつながりたかった、でもそれができなかったことを後悔していることが分かります。この『家族という病』というタイトル自体が、現代の日本人に対する一つの挑戦であると思います。すなわち、家族自体が「病」なのではなく、家族の心が通じないことが「病」なのです。

 家族の心が通じないと、実は本当に病になるということを、精神医学の専門家たちが指摘しています。特に日本の家庭の場合には、夫婦の精神的な結びつきを強くするのが伝統的・文化的に得意ではありませんでした。ところが、この夫婦関係と親子関係というのはバラバラではなくて、実は深いところでつながっていて、夫婦関係に問題があると、それが親子関係に現れてくると多くの専門家が指摘しているのです。

 世界乳幼児精神保健学会理事であり、日本支部会長を務めた渡辺久子先生は、慶應義塾大学医学部小児科専任講師も務めていますが、簡単に言えば「子どもの精神科医」ということになります。これまでさまざまな精神的な問題を抱えた子どもたちを診てきた先生は、以下のように語っています。
「日本でいま引きこもりの若者の数は推定100万人以上に上ります。しかも表には出ませんが、引きこもりはエリート家庭に多く、ほとんどは男の子です。その背景には内助の功で夫の社会的成功を支えた良妻賢母に対し、実は夫の理解がなく我慢してきた母親がいます。とにかく、日本の家庭は夫婦の仲良い姿を子供に見せられていないことが最大の弱点です。」

 渡辺先生は、「戦後の日本には、良い夫婦関係のモデルがなかった。」と言います。
「父母の仲が悪かったのを見て育った息子は、自分を産んだ母親を幸せにしようと思って、母親との心の臍の緒が切れない。そうなると、おふくろの味が一番良いと思うと、妻に自分の本音をぶつけて妻をけなすことになる。すると妻は面白くないから、自分の子供にのめり込んで、夫婦の冷たい関係を見て次の世代が育つ。そのようにして、男女のちぐはぐな関係が世代間伝達しているのが日本の現状ではないでしょうか。」
「私のところには、非常に夫婦関係の悪い方たちが来られます。その結果、子どもが2年、3年も引きこもっているのです。そうした状況では、お父さんにも必ず来ていただきます。ご夫婦で来ていただき、何とか和解していただきたいと思ってお話しします。

 『お二人は水と油という感じがします』と率直に言います。すると二人とも、『実はそうなんです』と率直に答えます。そこで私が二人に、『ここで握手をしてください。』といって実際に握手をしてもらい、『どう思いましたか?』と聞くと、ご主人は『こういう感覚は久しぶりです』というのです。本当はメンツを捨ててお互い仲良くなりたいと思っているのです。でも、いろんな思いがあってそれが素直にできないのです。

 そこで、『毎日、家に帰ったら、ただいまと言って握手しませんか』『握手するだけでなく、お互いに目を見て「お帰りなさい。お疲れさま」と言いませんか』とアドバイスするのです。ある家庭では、3年くらい引きこもっていた子がこれによって回復して元気になりました。」

 精神科医といえば、薬を与えて治すというイメージがあるのですが、こういう方法で治療している先生もいるのです。もっと重い症例もあります。幻覚妄想状態の女の子を抱えた夫婦に揃って来てもらったときの話です。
「お父さんが一生懸命話しているとき、お母さんが壁を向いているのです。夫婦仲が良いと、お母さんがお父さんの顔を見ています。そこで私は最後に『二人で握手してください』と言いました。お父さんは私の前で『良い父親』を印象づけようと思って手を出しました。しかし、お母さんはさっと手を引っ込めたのです。そして二人の動きがそこで止まるのです。

 私は、お父さんを椅子ごと引きずって、お母さんと向き合わせたのです。そしてお父さんに対して、『この人が手を後ろに回すのには訳があるんです。命がけで家庭を築いたのに、それを受け止めてくれなかった人がいるから、かつての愛が憎しみになっちゃったんですよ』と言ったのです。するとお母さんの目から涙が滝のように流れ落ちました。」

 この奥さんは、相当我慢してきたのでしょう。それで、渡辺先生の言葉が心の琴線に触れたので、溜まっていたものが涙となって出てきたのだと思います。渡辺先生は続けます。
「私は毎日お父さんが仕事から帰ってきたら、必ず握手をするようにという宿題を出しました。そのとき、お互いにしっかりと目を見るようにと言ったのです。その結果、夫婦の間に人間同士の和やかさが出てくるようになり、その空気があっという間に子供に伝わって、子供の自殺願望がなくなり、薬を飲む必要もなくなりました。

 日常的に大人がいい挨拶、思いやりのハーモニーを見せておくと、ちょうど、よい音楽を聞いているかのように体の中に入ってきて、よい音楽を奏でるようになります。『躾ける』というのは必ずしも意識的にやる必要はなくて、いいものにさらしておくことが大切です。

 お母さんがお父さんに包まれている感じがあると、母性が豊かになるんです。つまり『真の父性』がある環境にお母さんが置かれていると大丈夫です。赤ちゃんと一緒にいるお母さんは不安の塊です。そのお母さんを包むのが、お父さんの父性です。女性や子供を守って危険と戦う。つまり大切な愛おしい命を守る。それが父性でした。しかし今の日本の家庭は『親父は元気で留守がいい』になっているので、『夫婦のハーモニー』を見せることができない家庭を作ってしまったのです。」
「信頼に基づいた夫婦の性関係がうまくいっていない時は、その家族は一見どんなによく見えても、信頼関係は腐っていきます。若者たちが結婚しなくなっている背景には、両親のいがみ合う姿を見ているということがあります。それを率直に話してくれる子が多いです。

 オランダでは夕方6時に家族が全員帰って、食卓を囲むのです。それを守らないと次の世代が育たないからです。日本は真逆の実験をやっているわけですね、残業や単身赴任、経済が中心で、家庭が脇に追いやらてきました。」

 また、津田塾大学教授の三砂ちづる先生は以下のように語っています。
「この国で一番大変な問題は、実は、男と女の仲が悪くなっていることです。上の世代は下の世代を結婚させないばかりか、『結婚しても何もいいことはない』と、結婚、妊娠、出産に対するネガティブな情報を発信し続けた。肯定的な情報を発信して来なかったわけですから、その娘、息子世代が結婚しないのは当然だと思います。

 少子化対策は保育所の増設であるというのは、ほぼ神話に近いのです。保育所をつくれば女性がたくさん子供を産むという、『実証的』な研究調査データはありませんから、騙されているようなものです。

 私たちは男と女が生きていくとか、妊娠・出産について肯定的に語る語り口を2世代、3世代にわたって共有して来なかったのではないかと思います。」

 このように、いまの日本が抱えている問題の本質は、夫婦関係がよくないことと、それに伴って結婚や家族に対して肯定的なメッセージよりは否定的なメッセージが語られることが多いことにある、ということを鋭く指摘している専門家たちがいるのです。

信仰による家族愛の強化

 これまで「親子の愛」と「夫婦の愛」の話をしてきましたが、家族とは一体何かといえば、「親子の愛」と「夫婦の愛」があり、この二つが合わさったときに家族の絆が生まれるということなのです。この二つの愛を信仰によって強化することこそが、家庭連合が存在している目的なのです。
(次回に続く)

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