Moonism寄稿シリーズ04:2019年10-11月号


 私がこれまでに「UPFのビジョンと平和運動」と題してWorld CARP-Japanの機関誌『Moonism』に寄稿した文章をアップする「Moonism寄稿シリーズ」の第4回目です。World CARP-Japanは、私自身もかつて所属していた大学生の組織です。私が未来を担う大学生たちに伝えたい内容が表現されていると同時に、そのときに関心を持っていた事柄が現れており、時代の息吹を感じさせるものでもあります。今回は、2019年10-11月号に寄稿した文章です。

第4講:宗教間の和解による世界平和実現をめざすUPF

 2001年9月11日に米国で起きた同時多発テロは世界に大きな衝撃を与えました。その背後に、米国に反感を持つイスラム教の過激組織があると指摘されると、キリスト教を中心とする西洋社会とイスラム世界の対立が先鋭化し、世界は今もテロに怯えています。今回はこの事件の背景を分析すると同時に、文鮮明師の主導してきた宗教間の和解による平和実現の道を紹介します。

<ハンチントンの「文明の衝突」>
 9.11同時多発テロが起きたとき、多くの知識人がサミュエル・ハンチントンの「文明の衝突」という言葉を思い出しました。そしてこの事件を境に、世界平和に対する考え方が大きく転換したのです。

 冷戦時代には世界平和の問題といえば「民主主義」対「共産主義」というイデオロギーの問題でした。しかし、1989年11月9日にベルリンの壁が崩壊し、1991年12月25日にソビエト連邦が崩壊することによって冷戦時代は終焉し、「新世界秩序」の出現が期待されました。東西冷戦終了後しばらくは、フランシス・フクヤマが『歴史の終わり』(1992年)で主張したような「21世紀の世界は、民主主義と市場経済がグローバルに定着するだろう」というアメリカ的世界像がもてはやされました。

 しかし、これに対して大きな「ノー」を突き付けた人物がハンチントンでした。1996年に出版された彼の著書『文明の衝突』の中心的な主張は、21世紀の世界は、民主主義によって一つの世界が生まれるのではなく、数多くの文明の違いに起因する、分断された世界になるというものでした。すなわち、ポスト冷戦時代には、異なる文化を持つ国家同士が対立を深めていくだろうと言ったのです。9.11同時多発テロは、この「文明の衝突」の予言が成就したと考えられました。

<キリスト教とイスラム教の「宗教の衝突」>
 ハンチントンは『文明の衝突』の中で、西欧、東方正教会、ラテンアメリカ、イスラム、アフリカ、ヒンドゥー、仏教、中国、日本の9つの文明圏に世界を分割していますが、このように文明圏を分けている中心的な要素はまさに宗教です。したがって、文明の衝突とはすなわち「宗教の衝突」を意味するわけです。

 世界の主要宗教の人口分布を見ると、総人口の33%がキリスト教徒であり、20%がイスラム教徒であるとされています。したがって、キリスト教とイスラム教が対立するようになれば、全世界の人口の半分以上が争いに巻き込まれることになるのです。このように21世紀の平和に対する脅威として、文明の衝突、宗教間の対立が大きくクローズアップされるようになりました。

文明の衝突が示す9つの文明圏

<「ムジャヒディン」からタリバン、そして9.11へ>
 冷戦時代末期の1988年に公開された映画に、シルベスター・スタローン主演の「ランボー3:怒りのアフガン」という作品があります。この映画の背景には、1979年にソ連がアフガニスタンに侵攻し、1988年に撤退を決定したという歴史的事実があります。映画の内容は、米国の兵士ランボーと「ムジャヒディン」と呼ばれるイスラム教の民兵が協力してソ連軍の部隊と戦うというもので、キリスト教徒とイスラム教徒が協力して、無神論者の悪者であるソ連を倒したという構図になっているのです。ラストのテロップには、「この映画をすべてのアフガン戦士たちに捧げる」という言葉が流れます。

 実際にアメリカはソ連に対抗するために、CIAを通じてこのようなゲリラ組織に武器や装備を提供していたということですから、映画そのものはフィクションとはいえ、当時のアフガン情勢を反映していると言えます。しかし、皮肉にもそのムジャヒディンは後にタリバンなどの武装勢力となり、アメリカに反旗を翻すようになります。そしてそれがイラク戦争、9.11同時多発テロ、「イスラム国」を自称するISILの出現など、今日のアメリカを悩ます中東情勢へとつながっていくのです。「昨日の敵は今日の友」という言葉がありますが、ムジャヒディンに関してはまさにその逆になってしまったのです。

 冷戦終了後、欧米流のグローバリゼーションが政治、経済、軍事、文化など全ての分野で世界を圧倒的に主導してきました。共に血を流したにもかかわらず、冷戦終結の恩恵を受けることができずに取り残されてしまったイスラム世界には、こうした欧米化の波に対する反発や抵抗があり、それがテロリズムの動機となっているのです。テロ自体は許せませんが、私たちはその背景にある宗教間の対立に目を向ける必要があります。

<文鮮明師の宗教和合運動>
 文鮮明師は生涯をかけて宗教間の和解と調和のために働いてこられましたが、その成果物の一つが、世界の主要な宗教の経典の言葉を、テーマごとにまとめた『世界経典』です。それにより、世界の諸宗教の教えの約七割は同じことを言っており、残りの三割が各宗教の特徴を表す言葉であることが明らかになりました。大部分同じことを言っているにも関わらず、なぜお互いに争うのかを各宗教が内省する機会を提供したのです。

 もう一つが、2003年以来、ユダヤ教、キリスト教、イスラムの聖職者らが参加し、イスラエル、パレスチナ自治区、ヨルダン、レバノンなどで継続的に開催されている「中東平和イニシアチブ」です。中東三大宗教の和解の儀式として始まったこの運動は、いまやシリア問題やパレスチナ問題など、具体的な問題に対する解決策を討議するフォーラムに発展しています。

2003年10月22日、中東平和イニシアチブの一環としてエルサレムの旧市街で平和行進を行う平和大使ら(筆者撮影)

2003年10月22日、中東平和イニシアチブの一環としてエルサレムの旧市街で平和行進を行う平和大使ら(筆者撮影)

<世俗化と根本主義に二極化される世界を癒す>
 西洋の近代化は、宗教の社会的影響力が低下していった「世俗化」のプロセスによって特徴づけられます。これはイスラム世界から見れば「文明の堕落」にほかならず、この世俗化の波がイスラム世界に浸透してくることに対する反発が「イスラム根本主義」です。今日の世界は、極度に世俗化された社会と、かたくなに宗教的価値を守ろうとする根本主義とに二極化されつつあります。この溝を埋め、分断を癒すには政治家と宗教者の双方の努力とネットワークづくりが必要です。UPFが世界的に展開している二大プロジェクトである「世界平和議員連合(IAPP)」と「平和と開発のための宗教者協議会(IAPD)」は、宗教間の和解と協力を推進すると同時に、宗教的な知恵が平和構築に貢献しうる政治システムの確立を目指しています。

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