『世界思想』巻頭言シリーズ13:2023年10月号


 私がこれまでに平和大使協議会の機関誌『世界思想』に執筆した巻頭言をシリーズでアップしています。巻頭言は私の思想や世界観を表現するものであると同時に、そのときに関心を持っていた事柄が現れており、時代の息吹を感じさせるものでもあります。第13回の今回は、2023年10月号の巻頭言です。

憲法改正に本気で取り組むべき時が来た

 2020年に公開された映画『日本独立』を、私は映画館で一度見たのですが、今年の終戦記念日にレンタルでもう一度見ました。この映画は白洲次郎と吉田茂を軸に、日本国憲法がどのように作られたかを描いています。一国の憲法がこんな拙速なやり方で決められていいのか、というのが私の率直な感想です。

 いわゆる松本委員会による新憲法の草案があまりにも保守的であったためにマッカーサーはこれをよしとせず、連合国総司令部にいたアメリカの軍人たちによって極めて短期間で草案が作られ、それがほぼそのまま受け入れられて現在の日本国憲法になりました。

 マッカーサーが新憲法の制定を急がせた理由は、極東委員会が動き出せば米国が主体となっている日本の占領政策にソ連が口出しをしかねないので、その前に既成事実を作っておく必要があったからです。

 そのため日本国憲法の前文はそれ以前に存在した歴史的に有名な宣言や文書を寄せ集めて切り貼りしたような内容になっており、しかも英文を翻訳したような不自然な日本語になっています。なによりも日本の憲法でありながら日本の歴史、伝統、文化、国柄などに一切言及しておらず、「日本国の顔」が見えない文章になっています。

 『日本独立』の中で、吉田茂が自分の娘に対して「GHQは何の略か知っているか?」と尋ね、「ジェネラル・ヘッドクオーターじゃないの?」と答える娘に、「いや、ゴー・ホーム・クィックリー(早く帰れ)」だと冗談を言うシーンがあります。

 吉田茂としては、占領軍に逆らっても勝ち目はないから、いまはマッカーサーの憲法を受け入れておいて、講和と独立を勝ち取って米軍がいなくなったら、憲法改正はいくらでもできると考えていたのでしょう。まさかその憲法が施行以来76年にわたって一度も改正されないとは、夢にも思わなかったに違いありません。

 憲法が施行された1947年当時と現在では日本の状況は大きく変わっているのですから、憲法も時代に合わせて改正すべきなのは当然の理です。さらに、憲法では戦力を保持しないと言っているのに、実際には自衛隊が存在するなど、憲法と現実の間に大きな矛盾が生じてしまっています。自衛隊の違憲論争に終止符を打つためにも、憲法改正は必要です。

 昨年7月の参院選の結果、自民、公明、維新、国民を合わせた「改憲勢力」が衆参両院で3分の2を超え、憲法改正の数的基盤は整いました。そして大型国政選挙のない「黄金の3年」の間に憲法改正をやろうというのが岸田政権のプランだったのです。

 しかし、安倍元首相暗殺事件によって引き起こされた政局の混乱と岸田内閣の支持率低下により、「黄金の3年」はどこかに吹き飛んでしまい、盛り上がっていた憲法改正の機運もしぼんでしまいました。

 現在の日本国憲法は日本人の手によって自主的に作られたものではなく、さらにこの憲法の是非について日本国民の総意が問われたことは一度もありません。憲法改正は安倍首相の悲願でした。その遺志を受け継ぐためにも、われわれが憲法改正に本気で取り組むべき時が来たと感じます。

カテゴリー: 『世界思想』巻頭言シリーズ

BITTER WINTER家庭連合関連記事シリーズ26


信教の自由と人権のための雑誌「BITTER WINTER」がインターネット上で発表した家庭連合関係の記事を紹介する連載。これらの記事を書いたマッシモ・イントロヴィニエ氏はイタリアの宗教社会学者で、1988年にヨーロッパの宗教学者たちによって構成される「新宗教研究センター(CESNUR)」を設立し、その代表理事を務めている。これらの記事の著作権はマッシモ・イントロヴィニエ氏にあるが、特別に許可をいただいて私の個人ブログに日本語訳を転載させていただくことなった。昨年7月8日に起きた安倍晋三元首相暗殺事件以降の日本における家庭連合迫害の異常性を、海外の有識者がどのように見ているかを理解していただくうえで大変有益な内容であると思われたので、私の個人ブログでシリーズ化して紹介することにした。

日本:反カルトジャーナリスト鈴木エイト氏が虚偽記載で提訴される

10/28/2023 MASSIMO INTROVIGNE

UPFとディプログラミング被害者の後藤徹氏は、反統一教会キャンペーンで有名な記者に損害賠償を求める。

マッシモ・イントロヴィニエ著

鈴木エイト氏
ジャーナリスト鈴木エイト氏 出典:X(旧ツイッター)

今月、日本で提起された2つの訴訟によって、日本の裁判所の独立性と、不人気なグループであればどんなことでも何のおとがめもなく非難することが許されるのかという2つのことが試されることとなる。民主主義国家は言論の自由を保護しており、その中には気に入らない団体を批判することも含まれる。しかし、厳しい批判と明白な嘘とは明確に一線を画している。

例えば、(筆者を含む)多くの人々がQアノンに対して非常に否定的な意見を持ち、その危険な陰謀論を暴露しているかもしれない。しかし、Qアノンのリーダーも、彼らが他者に対して広めるのと同じ種類の虚偽の告発から守られている。もし私が、Qアノンの活動家が親プーチン派の投稿をすることでロシア大使館から何百万ドルも支払われている、とか、彼らには児童虐待の犯罪歴がある、などと書いたとして、その告発の証拠を何も提示できなければ、私はおそらく彼らに訴えられ、当然のことながら損害賠償を支払わなければならないだろう。Qアノンが社会的に負の役割を果たしているという議論は、激しい批判を正当化するために使うことができるかもしれないが、明らかに虚偽であるQアノンのリーダーについての発言は許されないだろう。これが民主主義の仕組みだ。政権に反対する者や一部の少数派宗教を含む「望ましくない」とレッテルを貼られた集団が、どんなことで非難されても自らを守る術を持たないのは、ロシアや中国のような全体主義体制でのみ起こることである。

鈴木エイト氏は、(現在は世界平和統一家庭連合と呼ばれている)統一教会や、その他の「カルト」を攻撃することを零細ビジネスから儲かるビジネスに変えた日本のジャーナリストである。私の個人的見解では、これは不道徳であるが、違法ではない。「カルト」のレッテルを貼られた少数派宗教に対する偏見は、日本社会とメディアに広く浸透して(日本に拠点を置く外国人記者にも及んで)いるため、鈴木氏は賞まで受賞している。

しかし問題は、民主主義国家において、鈴木氏のような人物が、統一教会やその信者、関連する組織に対して虚偽の声明を発表し、統一教会が、日本政府が解散させようとしている「反社会的」組織であるという論拠を盾にして、その嘘から逃れることが許されるべきかどうかということである。日本の裁判所は今、2つの別々の訴訟でこの疑問に答えなければならない。

1つ目の訴訟は、統一教会の創設者でもある故文鮮明(ムン・ソンミョン)総裁とその妻である韓鶴子(ハン・ハクジャ)博士によって設立された、国連の総合協議資格を持つNGOであるUPFによって起こされた。「ビター・ウィンター」が発表した白書に記されているように、UPFは統一教会との関係を一切隠していないものの、統一教会に代わって布教活動を行うことはなく、「平和大使」としてUPFの行事に参加し活動している人々の大半は家庭連合の会員ではない。

暗殺された安倍晋三元首相は、2021年9月に韓国で開催されたUPFのイベントにビデオメッセージを寄せた。鈴木エイト氏は、安倍元首相はこのビデオメッセージに対して5000万円(334,000ドル)を受け取ったと繰り返し述べている。UPFは、安倍元首相に報酬を一切支払っていないと主張している。政治資金規正法違反や脱税をしたこととなるので、亡き安倍元首相をも中傷する発言である。鈴木氏は、UPFと統一教会とのつながりを批判したことでUPFから迫害されていると主張して煙幕を張ろうとしているが、問題はもっと単純だ。UPFがビデオメッセージの報酬として安倍元首相に5000万円を支払ったか、支払わなかったかである。もし鈴木氏が5,000万円を支払ったという証拠がないのであれば、彼は原告であるUPFに損害を与える嘘を広めたことになり、損害賠償を支払わなければならない。UPFが良い組織なのか悪い組織なのか、統一教会とどのようなつながりがあるのかは、訴訟の主題ではない。裁判所が検討すべき唯一の問題は、UPFが安倍首相に5000万円を支払ったという証拠が鈴木氏にあるかどうかである。もしその証拠が存在しないのであれば、裁判所は鈴木氏を嘘つきであり中傷をした者であると断定し、その代償を支払わせるべきである。

2つ目の訴訟は、ディプログラミングという醜悪な犯罪の最も有名な被害者である後藤徹氏によるものだ。ディプログラミングとは、アメリカで生まれ、後に日本に輸出された行為で、「カルト」のレッテルを貼られた団体の成人会員を誘拐して監禁し、信仰を棄てるまで宗教運動に関する否定的な情報や肉体的・精神的暴力を浴びせるというものである。欧米の民主主義諸国は前世紀にディプログラミングを違法としたが、日本では後藤徹氏の事件までは存続していた。彼は誘拐され、隔離され、栄養失調になり、12年5ヶ月という信じられないほど長い期間虐待された。その苦難がようやく終わったとき、彼はまるでナチスの強制収容所の生き残りのようだった。

後藤徹氏
解放後の後藤徹氏。

2014年に高裁は、後藤氏の苦しい体験を詳細に再現し、判決で多額の損害賠償が認められ(2015年に最高裁でも確定し)た。また、そのときに2つの抗弁、一つは、統一教会が「反社会的」組織であるという事実が、その信者を誘拐し、不法に拘束することを正当化するというもの、そしてもうひとつは、最初に何度か試みた後、もはや逃げようとしなかったことから、後藤徹氏がディプログラミングを「自発的に」受けたというものであったが裁判所はこれらを明確に否定した。高裁は、後藤徹氏について、「それまでの経験や、近所にディプログラミングの関係者がいたことから、逃げようとすれば妨害され、逆に監視が厳しくなることを十分認識していた。したがって、この(脱走しようとしなかった)ことは、控訴人(後藤徹氏)の自発的な意思によるものではないと判断する」と述べた。

この事件は最高裁の最終判決によって終結した。これにより、他の宗教的マイノリティの信者も同じ目的で誘拐されていたことはさておき、統一教会信者だけで4千人以上の犠牲者を出していた日本におけるディプログラミングという犯罪行為に終止符が打たれた。

後藤徹氏の事件は、弁護士やジャーナリストが(全員一致ではないにせよ)ディプログラミングを支持していた日本の反カルト運動の評判に傷をつけた。鈴木氏はこのことを熟知していたにも関わらず、後藤氏が自発的にディプログラミングを受けたという古い主張を繰り返した。さらに悪質なことに、鈴木は後藤徹氏のケースを「ひきこもり」と決めつけた。「ひきこもり」とは日本独特の現象で、社会から引きこもり、親や社会保障に経済的に支えられながら、ほとんどの時間を自室で過ごすという、何十万人もの若い男女が陥っている現象である。

後藤徹氏もまた、名誉を著しく傷つけられたとして鈴木氏に対して訴訟を起こしている。明らかに、「ひきこもり」の自発的な隔絶と、他人に誘拐され、監禁され、虐待されることは、まったく異なるものである。今回の訴訟の場合、裁判所が後藤徹氏に実際に何が起こったのかを確認する必要はないはずだ。この調査は、2014年と2015年に高裁と最高裁がすでに行い、後藤氏が自発的にディプログラミングと虐待を受けたという後藤氏の親族やディプログラマーによる弁明を明確に否定した。鈴木氏は、裁判所によってすでに虚偽であることが暴かれているこのとんでもない理論を繰り返したのである。国の最高裁が間違っていたことを証明できない限り、鈴木氏は後藤氏の名誉を毀損したのであり、処罰されるべきである。もう一度言うが、統一教会が良い組織か悪い組織かは、この訴訟には関係ない。

記者会見での自撮り
後藤徹氏(着席、右)と弁護士による記者会見に臨む鈴木エイト氏(左)。出典:X

予想通りだが、後藤徹氏と弁護士による記者会見に登場した際やその後のインタビューで、鈴木氏は自身の言論の自由が侵害されており、これらはスラップ訴訟(公的参加に対する戦略的訴訟、口封じ訴訟)であると主張した。これもまた虚偽の主張である。UPFも後藤徹氏も、鈴木氏が自分たちや家庭連合を批判するのを阻止するよう裁判所に求めてはいない。この訴訟は、UPFがビデオメッセージのために安倍晋三氏に5000万円を支払ったことと、後藤徹氏が自発的にディプログラミングと虐待を受けたという、鈴木氏による2つの具体的な発言に対するものである。

もし鈴木氏がこれらの発言が真実であることを証明できなければ、敗訴し、損害賠償を支払わなければならない。後藤徹氏のケースは日本の最高裁判所の最終決定があり、真実だと証明できる可能性は極めて低い。しかし、正当な理由のない政府による家庭連合解散請求によって作られた風潮の中で、何でもありになり、鈴木氏が嘘をつき、生者と死者の評判を地に落とすことが許されてしまう場合は、この限りではない。しかしこれは、日本の民主主義の友人として、また称賛者として、考えたくない可能性である。

以上の記事のオリジナルは以下のURLで見ることができる。

https://bitterwinter.org/%e6%97%a5%e6%9c%ac%ef%bc%9a%e5%8f%8d%e3%82%ab%e3%83%ab%e3%83%88%e3%82%b8%e3%83%a3%e3%83%bc%e3%83%8a%e3%83%aa%e3%82%b9%e3%83%88%e9%88%b4%e6%9c%a8%e3%82%a8%e3%82%a4%e3%83%88%e6%b0%8f%e3%81%8c%e8%99%9a/

カテゴリー: BITTER WINTER家庭連合関連記事シリーズ

BITTER WINTER家庭連合関連記事シリーズ25


信教の自由と人権のための雑誌「BITTER WINTER」がインターネット上で発表した家庭連合関係の記事を紹介する連載。これらの記事を書いたマッシモ・イントロヴィニエ氏はイタリアの宗教社会学者で、1988年にヨーロッパの宗教学者たちによって構成される「新宗教研究センター(CESNUR)」を設立し、その代表理事を務めている。これらの記事の著作権はマッシモ・イントロヴィニエ氏にあるが、特別に許可をいただいて私の個人ブログに日本語訳を転載させていただくことなった。昨年7月8日に起きた安倍晋三元首相暗殺事件以降の日本における家庭連合迫害の異常性を、海外の有識者がどのように見ているかを理解していただくうえで大変有益な内容であると思われたので、私の個人ブログでシリーズ化して紹介することにした。

日本統一教会の解散要求:悲劇的な信教の自由の侵害

10/16/2023BITTER WINTER

宗教の自由を擁護する世界の有力者を代表する12のNGOが日本政府の行動に抗議する。

ビター・ウィンター著

韓鶴子
写真: 2019年に名古屋で開催された大会での統一教会/家庭連合の指導者、韓鶴子総裁。フェイスブックより

私たちは今日世界で最も脅かされている人権であると学者たちが指摘する信教の自由へのコミットメントと関心を共有する宗教団体と宗教とは関係ない団体を代表しています。私たちはまた、日本の国、日本の文化、そして血なまぐさい非民主主義政権に悩まされている地域においても活気ある日本の民主主義に対する共感と称賛を共有しています。

私たちは安倍晋三元首相が暗殺された後、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に何らかの責任を負わせ、宗教団体としての解散を請求する動きも含め、日本の動向を大きな関心を持って見守ってきました。

暗殺者は、2002年に自分の母親が過剰な寄付をして破産したために宗教団体である家族連合を憎んでいると主張し、凶悪な犯行の動機として、安倍元首相が家族連合に協力したことを罰するつもりだったと供述しています。暗殺者がなぜ母親の破産から20年も待って安倍元首相を殺したのかなど、犯行のすべては明らかになっていません。犯人の母親の親族が苦情を申し立てた後、家族連合が寄付金を一部返済したという事実は、メディアではほとんど触れられていません。また、暗殺者自身が統一教会の信者ではなかったという事実も、当然のことながら強調されるべきなのですが、されていません。

この犯行の後、家族連合を敵視する弁護士やその他の人々によって、ほぼ政治的な理由から古いキャンペーンが刷新されました。彼らは、反共産主義的なイニシアチブのスポンサーとして何十年も成功を収めてきた家族連合を恨んでいて、数十年前の出来事に言及した真実、半端な真実、そして全くの嘘を織り交ぜて、家族連合は反社会的な組織であり、高額な寄付金とその価値を大きく上回る金額で信者に物を売る「霊感商法」によって資金を調達していて、厳しい教育のために二世信者が苦しんでいる、と主張しました。これに記者会見やマスコミによる前代未聞の誹謗中傷キャンペーンが続きました。

私たちは信者に対する過剰な献金圧力や、すべての二世信者が同意するわけではない厳格な教育が、多くの宗教団体に存在する問題であることは認めます。しかし、家族連合に関しては、フリージャーナリストによって虚偽であると暴露された内容も含む過激派弁護士や「背教者」となった元信者の話だけに耳を傾け、不公正かつ一方的に報道されていることが分かります。

「霊感商法」とは、家庭連合の信者がかつて行っていた活動を指すために、反対派が作り出したレッテルです。家庭連合は2009年、熱狂的な信者に対して、このような行動を中止するよう勧告し、以後それらの行動を禁止する公式宣言を発表しました。安倍晋三氏が暗殺される前、2009年以降に発生した家庭連合会員による「霊感商法」に対する訴訟は、ほんの一握りまで減少していました。メディアで取り上げられている事件の多くは、15年以上前に起きたとされる事件です。敵対する弁護士たちは違うと言いますが、事実は彼らの主張とは一致せず、いわゆる「霊感商法」を行った日付と、その数年後に始まった訴訟の日付を悪意を持って混同させています。

寄付を募り、子供たちを厳格に保守的な方法で教育することに関しては、家庭連合が他の多くの宗教団体と大きく異なる方法で行動しているという証拠はありません。

家庭連合の解散は、民主主義国家ではなく、中国やロシアでの慣行を彷彿させる措置であり、その罪状とは釣り合わないし、家庭連合の遵法行動とも一致しません。また、特定の弁護士や政治団体、メディアから不人気な他の宗教的少数派に対して同様の行動を許す道を開くことになります。

私たちは日本の当局と裁判所に対し、信教の自由を含む民主主義の原則を約束する国としての日本のイメージを永遠に汚すような措置を進めないよう強く求めます。米国務省の国際信教の自由オフィスの元特使であるスーザン・ジョンソン・クック大使と、国際信教の自由サミットの共同議長であるカトリーナ・ラントス=スウェット博士がReal Clear Politicsの9月の論説で書いたように、解散を迫ることは、「人気のない宗教的少数派が、中傷的なメディア・キャンペーンによって地ならしがされた上で『解体』されるような」全体主義体制と日本を同列に並べることになります。

これは、我々が尊敬し愛するようになった日本ではありません。

2023年10月14日

マルコ・レスピンティ、宗教の自由と人権に関する日刊誌『Bitter Winter』ディレクター・イン・チャージ

ティエリー・ヴァレ、CAP-LC(良心の自由のための団体と個人の連携)会長

マッシモ・イントロヴィニエ、CESNUR(新宗教研究センター)共同設立者兼マネージング・ディレクター

エリック・ルー、EIFRF(宗教の自由のための欧州宗教間フォーラム)議長

フランチェスコ・クルト、Fedinsieme[Faiths Together]共同設立者

アレッサンドロ・アミカレッリ、FOB(欧州信仰自由連合)会長

アーロン・ローズ、FOREF(欧州宗教自由フォーラム)会長

ハンス・ノーズ、信教の自由のためのゲルハルト・ノーズ財団理事

ウィリー・フォートレ、HRWF「国境なき人権」共同創設者兼ディレクター

ラファエラ・ディ・マルツィオ、LIREC(宗教・信仰・良心の自由に関する研究センター)マネージング・ディレクター

ロジータ・ショリテ、ORLIR(難民の宗教的自由の観察機関)会長

カメリア・マリン、ソテリア・インターナショナル副所長

以上の記事のオリジナルは以下のURLで見ることができる。
https://bitterwinter.org/%e6%97%a5%e6%9c%ac%e7%b5%b1%e4%b8%80%e6%95%99%e4%bc%9a%e3%81%ae%e8%a7%a3%e6%95%a3%e8%a6%81%e6%b1%82%ef%bc%9a%e6%82%b2%e5%8a%87%e7%9a%84%e3%81%aa%e4%bf%a1%e6%95%99%e3%81%ae%e8%87%aa%e7%94%b1%e3%81%ae/

カテゴリー: BITTER WINTER家庭連合関連記事シリーズ

BITTER WINTER家庭連合関連記事シリーズ24


信教の自由と人権のための雑誌「BITTER WINTER」がインターネット上で発表した家庭連合関係の記事を紹介する連載。これらの記事を書いたマッシモ・イントロヴィニエ氏はイタリアの宗教社会学者で、1988年にヨーロッパの宗教学者たちによって構成される「新宗教研究センター(CESNUR)」を設立し、その代表理事を務めている。これらの記事の著作権はマッシモ・イントロヴィニエ氏にあるが、特別に許可をいただいて私の個人ブログに日本語訳を転載させていただくことなった。昨年7月8日に起きた安倍晋三元首相暗殺事件以降の日本における家庭連合迫害の異常性を、海外の有識者がどのように見ているかを理解していただくうえで大変有益な内容であると思われたので、私の個人ブログでシリーズ化して紹介することにした。

善行は報われないこともある:日本における世界平和女性連合に対する信じられない迫害

10/12/2023MASSIMO INTROVIGNEA

彼女たちの活動は数々の賞を受賞し、国連の認定も受けました。しかし統一教会との「つながり」を非難され、彼女たちの人生は今、地獄と化しています。

マッシモ・イントロヴィニエ

堀守子会長
堀守子・世界平和女性連合日本会長

『Bitter Winter』は安倍晋三元首相暗殺事件後の日本の動向と、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)にその責任を負わせようとする試みを、非常に懸念してきました。暗殺者はその凶悪な犯行の動機として、安倍首相が家庭連合に協力したことに報いるつもりだったと供述しました。2002年に彼の母親が家庭連合に過剰な献金をして破産したため、彼はその宗教団体を憎んでいたのだというのです。この事件後、主に政治的理由から家庭連合に敵対する弁護士その他の人々によって、古いキャンペーンが再燃しました。彼らは、何十年もの間成功裏に反共産主義活動を後援してきた家庭連合に恨みをもっていたのです。彼らは、家庭連合は、信者に物品を本来の価値を過剰に上回る高額な値段で販売する「霊感商法」や、不適切な圧力による献金によって、自己資金を調達している反社会的な組織であり、教会で生まれた二世信者は虐待され、精神的苦痛を受けていると主張しています。記者会見や前代未聞のメディアによる誹謗中傷キャンペーンが続き、政府が宗教団体としての家庭連合の解散を求める決定を下すまでに至りました。

解散は、適正手続後に、裁判所によって宣言されるべきものです。しかし、すでに日本では、憲法及び国際人権法によって禁止されている差別的行為によって、家庭連合の信者や関連する団体の会員を標的にした魔女狩りが行われています。その格好の例は、国連の経済社会理事会(ECOSOC)において25年以上にわたって総合協議資格を維持してきたNGOである、世界平和女性連合インターナショナル(WFWPI)です。WFWPIが1997年に得た「総合協議資格」は、何千ものNGOに与えられている「特殊諮問資格」とは異なります。総合協議資格は比較的珍しいとされています。この資格は、ECOSOCの規則に従い、「広範な地理的範囲を持つ、かなり大規模で確立された国際NGO」で、「いくつかの分野」において国連の目的に「実質的かつ持続的な貢献」を提供しているNGOに対し、徹底した調査を経て与えられます。

WFWPIが1992年に、当時統一教会と呼ばれていた家庭連合の指導者、韓鶴子博士とその亡き夫である文鮮明師によって設立されたことは間違いありません。このことは決して隠されているわけではなく、同団体のウェブサイトで明確に説明されています。一方、WFWPIの目的は家庭連合のための布教ではなく、慈善事業や教育活動を通じて国際的に女性を支援することにあります。WFWPIの活動に参加する人々は、宗教に属しているか、あるいは無宗教であるかを問いません。

しかし日本では、家庭連合解散の裁判結果を待つまでもなく、WFWPIは民主主義国家では前例のない、信じられない差別的キャンペーンの犠牲になっているのです。『Bitter Winter』はWFWPI・WFWP Japanの堀守子会長にインタビューしました。彼女の主張はすべて文書によって裏付けられています。信じられないように思えるかもしれませんが、彼女が語るストーリーは悲劇的な現実なのです。

日本におけるWFWPIの活動についてもっと教えてください。

ご存知の通り、WFWPIは1992年に設立された国際的NGOです。WFWP Japanはその日本支部です。1994年に、WFWP Japanは海外プロジェクトを開始し、50ヵ国で100以上のプロジェクトを実施してきました。私たちの主な焦点は、開発途上国の貧困に苦しむ地域の女性と子供たちの教育です。私たちの献身的なボランティア活動は、あらゆる宗教や信条を持つ女性達に利益をもたらすプロジェクトを通じて重要な貢献をし、未来への希望を及ぼしてきました。数えきれない程の多くの国連機関や他の国際機関とも緊密に連携し、世界各国での活動に対して高い評価を受けてきました。WFWP Japanのニジェールとセネガルでのプロジェクトは、国連のウェブサイトでNGOの “ベスト・プラクティス “として紹介されました。

ネパールにおける教育支援
WFWP Japanは、2011年よりネパールのエカタ・アカデミーの生徒たちの学費や教材を支援しています。同校はWFWPによって建設され、2007年に開校、2017年以降は独立して運営されています。出典 WFWP Japan

1987年以降、統一教会に反対するキャンペーンを行っている反カルト団体、全国霊感商法対策弁護士連絡会(全国弁連)は、WFWP Japanは家庭連合の「隠れ蓑」に過ぎないと主張しています。これらの主張にどう答えますか?

「隠れ蓑」という言葉には、何か隠されたものや欺瞞があるという意味が込められています。実際には、私たちのすべての出版物は、私たちの創設者が文鮮明師と文鶴子女史であることを認めています。私自身も、自分が家庭連合の信者であることを一切隠していません。WFWP Japanが、資金面・組織運営面双方で、家庭連合から独立した組織であることもまた事実です。私たちは家庭連合のために布教することも、資金集めをすることもしていません。WFWP Japanが援助・支援する女性たちも、ボランティアの人たちも、あらゆる宗教を信仰している人たちがおり、場合によっては無宗教の人もいます。WFWP Japanの会員には、無神論者、キリスト教徒、仏教徒、イスラム教徒、そして創価学会や真如苑を含むさまざまな教団や宗教の信奉者がいます。また、会員の政治的意見も、保守からリベラルまでさまざまです。

安倍元首相暗殺後、『Bitter Winter』は、実に酷い偏見の例として、あなた方の有名なボランティア奉仕者である宝山晶子さんの話を取り上げました…。

昨年、WFWP Japanのモザンビーク派遣員である宝山晶子さんは、在モザンビーク日本大使館から電話を受け、外務省が彼女の優れた教育活動に対して授与した大臣表彰の取り消しを決定したと知らされました。この事件は、日本共産党の穀田恵二議員が国会の予算委員会で、外務省が「統一教会の関連団体」に賞を与えたとして非難したことから始まったものです。

穀田氏は、モザンビークにあるWFWPの学校が統一教会の教義を教え、生徒たちに布教していると非難しましたが、それは事実ではありません。表彰が取り消されたことは、宝山さんだけでなく、30年にわたってモザンビークの学校とその生徒たちを支援してきたWFWP Japanの会員にとっても衝撃的なものでした。宝山さんによると、日本大使館こそが外務大臣表彰に推薦したのだそうです。彼女は、賞状と受賞の記念品として受け取った風呂敷を返却するよう求められました。

モザンビークにあるWFWPの学校は、数十年にわたる植民地支配と内戦に苦しんでいたこの国の子供たちに、教育と未来への希望をもたらすために設立されました。WFWPは、地域社会の要請を受け、貧困に苦しむ地域に学校を設立することを決定しました。30年が経ち、女子生徒が全体の50%以上を占めるようになりました。私たちの学校は、その高い教育水準が認められ、賞賛を受けています。外務省が表彰を取り消した後も、WFWPは在日モザンビーク大使館から感謝状を受け取りました。明らかに、モザンビークの人々は、日本の一部の政治家や反カルト主義者による誹謗中傷キャンペーンからではなく、直接、私たちの学校について見聞きした真実を知っているのです。

モザンビークの太陽中学高校
宝山晶子氏が働いているモザンビークの太陽中学高校。出典 WFWP-USA。

全国弁連はあなた方の弁論大会も攻撃し、かなりの被害を及ぼしたと聞いていますが…。

私たちは女子留学生日本語弁論大会を行っていることで全国の大学で有名になっています。これは女子留学生の日本語能力を競うコンテストです。今年6月15日、全国弁連はこの弁論大会に抗議する声明を発表し、自治体や大学に対し、WFWP Japanによる公共施設の使用を許可しないよう要請しました。しかし、弁論大会は言語に関するものであり、宗教や家庭連合とは何の関係もありません。

WFWPの会員はこの抗議に?然としました。WFWP Japanは26年前から、大使館や大学、自治体などの協力を得て、このコンテストを開催してきました。日本に来る女子留学生を支援する方法として、広く称賛されてきました。

弁論大会はWFWPの主要プロジェクトの一つであり、女子留学生を支援するだけでなく、日本国民に留学生の視点を通して日本を理解する貴重な機会を提供してきました。私たちは、女子留学生の支援と国際理解促進のために、このプロジェクトを実施していることに誇りを持っています。

全国弁連の抗議と自治体への要請により、WFWP Japanのいくつかの地方支部は特定の公共施設を使用できなくなりました。5つの自治体が弁論大会のために公共施設を使用することを拒否しました。一部の大学関係者は、WFWP弁論大会への参加を留学生に許可しただけで、大学が「家庭連合に協力している」と非難されたと主張しています。

これらはもはや一過性の出来事ではありませんね……。

残念ながらそうですね。WFWP Japanの会員は、現在においても過去においても家庭連合の信者でかった人たちを含め、非常に困難な状況に置かれています。彼女たちの人生は打ち砕かれ、日々さまざまないじめや差別を受けています。高崎市は、「WFWPは住民に恐怖心を与える団体である」として、WFWP Japanの支部に公共施設の使用を許可しないと通告しました。WFWPはボランティア団体として、地元住民にも評価されているプロジェクトを通じて、30年にわたり地域社会に貢献してきたことを考えると、この通告は非常に理不尽でした。

紀藤弁護士
反カルト全国霊感商法対策弁護士連絡会の中心人物、紀藤正樹弁護士(スクリーンショット)

WFWP Japanの多くの地方支部は、それぞれの自治体にボランティア団体として登録しています。これらの自治体の中には、私たちの登録を一方的に取り消したところもあります。

9月には、2つの印刷会社が私たちの資料の印刷をいったんは引き受けたにもかかわらず、その後に拒んできました。そのうちの1社は、「あなた方は統一教会と関係があるから、当社の評判に影響するため印刷できない」と言いました。日本では、私たちが伝えたい話を印刷することもできない上、言葉で伝えることさえも難しい状況にあります。いくつかのホテルは、全国弁連やメディアから攻撃されることを恐れて、私たちに部屋を貸すことを拒否しています。私たちは記者会見を2回開き、自治体に数多くの抗議文を提出し、さまざまな報告書を発表してきました。しかし残念なことに、私たちの主張はメディアで限定的にしか報道されませんでした。このことは、日本のメディアのほとんどが全国弁連のプロパガンダに盲従し、真実の報道を優先していないことを示しています。

私たちの被害はますます深刻になっており、家庭連合の解散プロセスが進めばさらに悪化する以外にないと予想されます。このような状況は、日本の会員だけに影響を及ぼすものではありません。WFWPの海外支援活動によって支えられ、私たちの援助に頼っている2万人以上の受益者の幸福や、場合によっては命さえも危険にさらしているのです。もし私たちが日本で通常の活動を行うことや、支援金を集めることが許されないのであれば、貧困国の何万人もの女性や子供たちを支援しているプロジェクトを中止せざるを得なくなるでしょう。私たちが提供する教育、食料、住居を奪われるなら、彼女たちもまた、日本における全国弁連、日本共産党、及び誹謗中傷キャンペーンの犠牲者となるでしょう。

この迫害にどう対処するつもりですか?

国連公認のNGOとして、WFWPIは過去30年間、女性のために、特に最も貧しく貧困にあえぐ人々のために優れた活動を行なってきたことで、国連でもよく知られています。このような状況から、私たちは国連人権委員会に現状を訴えました。WFWPとその会員、そして私たちから援助を受ける人々に対する迫害と妨害は、宗教的憎悪の行為であり、明らかな人権侵害です。

日本の風潮からも、フェイクニュースを流したメディアがそれを訂正するとは思えません。繰り返しますが、あらゆる宗教の、あるいは無宗教の何千もの女性たちに罪があるというなら、唯一の罪は、世界中の他の女性たちを助けるためにボランティアとして何十年も働いてきたことです。にもかかわらず、彼女たちはこれからも嫌がらせを受け、差別され、いじめられ続けるでしょう。「善行は報われないこともある」という諺がありますが、この諺は文字通りWFWP Japanの会員に当てはまります。善行のために、彼女たちの人生は地獄に変わりつつあります。私は、国際的な支援だけがこの状況を変えることができると信じています。人権と信教の自由を守ることを使命とするすべての人々に対して、この迫害をやめるべきだとする声明を発表していただき、日本政府に伝えて欲しいと訴えたいと思います。

以上の記事のオリジナルは以下のURLで見ることができる。

https://bitterwinter.org/%e5%96%84%e8%a1%8c%e3%81%af%e5%a0%b1%e3%82%8f%e3%82%8c%e3%81%aa%e3%81%84%e3%81%93%e3%81%a8%e3%82%82%e3%81%82%e3%82%8b%ef%bc%9a%e6%97%a5%e6%9c%ac%e3%81%ab%e3%81%8a%e3%81%91%e3%82%8b%e4%b8%96%e7%95%8c/

カテゴリー: BITTER WINTER家庭連合関連記事シリーズ

憲法改正について11


4.各政党の憲法改正に対する主張はどうなっているか?(続き)

 現在の国政政党がそれぞれ、憲法改正に対してどのような主張をしているかについての説明の続きです。

憲法改正について図⑱

 日本維新の会は、教育無償化など、4項目の憲法改正案を提示しています。①教育の無償化、②地域主権、③憲法裁判所の設置、④9条への自衛隊規定、を柱として憲法改正に賛成しています。

憲法改正について図⑲

 国民民主党は、9条は現実と乖離しているので解決策を提示すべきだと主張し、自衛権の明記を提案しています。4つの柱として、①人権保障のアップデート、②地方自治の発展・強化、③統治のあり方の再構築、④国家目標の設定、を挙げています。

憲法改正について図⑳

 立憲民主党は、憲法を改正しようとまでは言っておらず、憲法について積極的に議論するという意味での「論憲」を掲げています。したがって、具体的な憲法改正案はまとめていません。しかし憲法に関して主張している内容を見る限りでは、どちらかというとリベラルな方向に憲法を改正しようとしているように見えます。

憲法改正について図21

 日本共産党は、憲法のすべての条項を守ると宣言しており、完全な「護憲」の立場です。「自衛隊明記」と「緊急事態条項」は、日本の平和と民主主義にとって危険であると主張しています。ジェンダー平等社会など、憲法の精神を生かした新しい日本をつくることが重要なのであって、憲法改正は必要ないというのが共産党の立場です。

憲法改正について図22

 社会民主党は「護憲平和」「改憲阻止」が党の一丁目一番地であると言っているように、「護憲」の立場をとっています。

憲法改正について図23

 れいわ新選組は、「いま憲法を変える必要はない」と言っています。必要なのは、憲法が守られていない社会状況を変えることであり、自民党の憲法改正案には反対だと言っています。

憲法改正について図24

 国政に参加している政党の改憲に関する立場を一枚の図にして、賛成と反対という軸でマッピングするとこのようになります。改憲に賛成で、具体的な改憲案を持っているのは自民党、日本維新の会、国民民主党です。中間には改憲案はないけど議論しましょうというグループがあり、それが公明党、立憲民主党、NHK党です。改憲に反対しているのが共産党、社民党、れいわ新選組ということになります。これが改憲を巡るいまの政治地図です。そこで自民党は日本維新の会、国民民主党、さらには公明党の協力も取りつけて賛成の方向に持って行こうとしているのです。

憲法改正について図25

 さて、2022年5月23日に「新しい憲法を制定する推進大会」が開催されました。この大会には公明党、日本維新の会、国民民主党の代表が参加し、憲法審査会で議論に参加している各党の代表が挨拶をしました。国民民主党は玉木代表が挨拶をしました。このように昨年5月の時点では、複数の政党が協力して、憲法改正の機運が盛り上がっている雰囲気だったのです。

憲法改正について図26

 この大会で、当時存命であった安倍元首相が以下のように講演をされました。
「憲法審査会でも9条について議論がなされ、コロナ禍を経験し、緊急事態条項の必要性についても国民的な理解が高まってきました。改憲の発議をするために衆参両院で必要な3分の2を形成する状況は整いつつあります。しっかり国会で議論して国民の審判を受けるべきときがやってきました」

 憲法改正は安倍首相の悲願でした。ですからあの事件がなければ、そのまま憲法改正に向かって進んでいた可能性が高いのです。

憲法改正について図27

 そして2022年の夏の参院選で自民党が単独過半数を獲得します。この選挙の結果により、衆参両院で自民、公明、維新、国民を合わせた「改憲勢力」が3分の2を越えることになったのです。これにより、衆参両院で改憲発議に必要な3分の2ラインを突破することができたのです。このように数的基盤は整ったのですが、あの事件によってまったくそのような機運はなくなってしまい、「黄金の三年間」はどこかに吹っ飛んでしまったのです。その意味で、あの事件は憲法改正に対しても大きな影響を与えたと言えます。

結論(私見)

 最後にあくまで私見ということで、結論を述べたいと思います。
・日本の憲法は、日本国民の手により、自主的に制定すべき。
・憲法は時代に合わせてアップデートすべき。
・憲法は「国のかたち」を表す。前文は書き変えるべき。
・平和主義を維持しつつ自衛権を認め、自衛隊を明記すべき。
・緊急事態条項を設けるべき。
・家族の尊重・保護の規定を設けるべき。

憲法改正について図28

 最後に参考文献を紹介します。西修先生の『”ざんねんな”日本国憲法』はこのプレゼンの主要なソースとなっております。西修先生とはかなり立場が違いますが、小林節先生の『白熱講義!憲法改正』も、ある部分においては参考になりました。『池上彰の憲法入門』も読みましたが、これはあまり得るものはなかったというのが私の感想です。

カテゴリー: 憲法改正について

憲法改正について10


2.憲法学者の中で護憲派が主流である理由

 日本の憲法学者の中に自衛隊が違憲であると言ってみたり、護憲を唱える人が多いのは、憲法学者の中に左翼的な人物が多いからです。これは戦後処理の問題と関わっています。

 GHQは1946年に戦前の日本の政策に貢献した人々の公職追放を行いました。これにより20万人以上の人々が職を追われたわけですが、それでも政界や実業界では有力な人々が復帰しました。その中に松下幸之助や岸信介などが入っていました。

 しかし、さまざまな業界で公職復帰がなされる中で、公職追放された人々がまったく復帰しない二つの重要な分野がありました。それが大学とジャーナリズムです。主要大学の主な教授のうち、戦前、政府に利用価値があったような学者はみな追放され、その空席を埋めたのは主として戦前の日本をひっくり返したいと思っていた人、コミンテルンと直接・間接的に関係があった人たちでした。

 たとえば京都大学の瀧川幸辰や一橋大学の都留重人などは、明らかに左翼的思想の持主であったのですが、彼らは教授、法学部長、総長、学長になっていきました。ですから戦後、大学とジャーナリズムというこの二つの分野は左翼的な人々によって牛耳られてきたと言っても過言でないのです。

 こうした左翼的な学者たちの言うことを聞く弟子たちが、雨後の筍のごとく誕生したばかりの新制大学に送り込まれました。大学教授の多くは終身雇用です。大学教授は学問に殉じた職業なので、他は何もできなくてもよく、学説が自分の人格になってしまいます。学説イコール人格なので、教授が後継者を選ぶ際には、自分と同じ学説の人を選ぶようになります。教授は准教授や助教を選出できます。だから大学の人事は、急激に変わらない上に、同じ学説で統一されてしまうのです。

 国立なら東京大学と京都大学、私立なら早稲田大学などが学閥を作って思想集団になっています。主流の学説を支配しているのが東大学説です。こうした中では、護憲派の学者でなければ法学部で生き残れないという事情があるのです。すると憲法学者は軒並み護憲派というような状況になってしまうのです。

3.日本国憲法は世界で唯一の平和憲法か?

憲法改正について図⑮

 よく「日本国憲法は世界で唯一の平和憲法なのでこれをなんとしても守らなければならない」とか「憲法9条を世界遺産に登録しよう」などという話を聞きますが、憲法第9条は世界的に見ても極めて珍しい平和憲法なのでしょうか? 世界の憲法を比較研究してみれば、こうした主張は「井の中の蛙」的な発言であることが分かります。

 西修氏の調査によれば、189カ国中、161カ国の憲法に何らかの形で平和条項があることが分かりました。そもそも、日本国憲法が放棄することを宣言している「紛争を解決するための手段としての戦争」とは侵略戦争を意味し、その放棄は1928年の「パリ不戦条約」に明記されていたのです。パリ不戦条約は、当事国が国際紛争解決のために戦争に訴えることを非とし、国家の政策の手段としての戦争を放棄することを宣言するとともに、国際紛争を平和的に解決すべきことを定めています。これは第一次大戦後、世界から戦争をなくすことを意図して作られたものです。

 日本国憲法の9条1項は、1928年のパリ不戦条約と1945年の国連憲章などの国際法規を前提にしてつくられたものです。これらの文言を読み比べてみると、ほぼそっくりそのまま書き写していることが分かります。日本国憲法はこれらの国際法規範を遵守すると言っているにすぎないのであり、9条1項は日本独自のものでも、世界で唯一のものでもありません。

 西修氏の調査によると、成典化憲法をもつ189カ国中、161カ国(85.2%)が何らかの形での平和条項を持っています。例えば、平和政策の推進、国際協和、非同盟、中立、軍縮、国際紛争の平和的解決などの表現がなされています。その意味で「平和を希求する」という意味の文言は世界のほとんどの国の憲法にあることが分かります。

 日本国憲法9条1項と同じ「国際紛争を解決する手段としての戦争放棄」を謳っているのは、アゼルバイジャン、エクアドル、イタリア、ボリビアの憲法です。しかし、これらの国々の憲法には兵役の義務規定があるのです。ですから、平和条項と戦力の不保持は必ずしも同義ではないのです。

4.各政党の憲法改正に対する主張はどうなっているか?

 それでは現在の国政政党はそれぞれ、憲法改正に対してどのような主張をしているのでしょうか?

憲法改正について図⑯

 自由民主党にとって、憲法改正は結党以来の党是となっています。現在自民党は、①自衛隊の明記、②緊急事態対処条項、③参議院の合区の解消、④教育環境の整備、という4つの柱で憲法改正をやろうとしています。

憲法改正について図⑰

 しかし、同じ政権与党であっても公明党は憲法改正に対してそれほど積極的ではありません。公明党の立場は、制定時に想定されなかった理念や課題を踏まえてそれを憲法に書き加えるという意味の「加憲」を検討するというものです。そして現行憲法は戦後民主主義の基盤を築いたと評価しており、9条は堅持すべきだと考えています。ですから同じ政権与党でも、憲法改正に関しては自民党と温度差があるのです。

カテゴリー: 憲法改正について

憲法改正について09


 これまで憲法改正が必要な理由を七つのポイントにまとめて説明してきましたが、このシリーズの残りの回は、憲法改正をめぐる代表的な議論を紹介します。以下の4つの項目を扱いたいと思います。

①左翼が憲法改正に反対する理由
②憲法学者の中で護憲派が主流である理由
③日本国憲法は世界で唯一の平和憲法か?
④各政党の憲法改正に対する主張はどうなっているか?

1.左翼が憲法改正に反対する理由

 いまの政治情勢では、保守的な人々が憲法改正を叫び、共産党をはじめとする左翼勢力は護憲を叫んでいます。しかし、もともとはそうではありませんでした。共産党も社会党も、もともとは改憲派だったのです。

憲法改正について図⑭

①共産党も社会党も、もともとは改憲派だった

 日本共産党は第90回帝国議会(1946年)に政府が提出した『帝国憲法改正案』に対して終始、絶対反対を唱えました。当時、野坂参三は以下のように言っていました。
「当憲法は、我が国民と世界の人民の要望するような徹底した完全な民主主義の憲法ではなく、羊頭狗肉の憲法である」

 共産党は同年6月29日、『日本人民共和国憲法(草案)』を発表しています。この憲法草案は天皇制を徹底的に批判し、「日本国は人民共和国である」ことを第1条に明記していました。これが共産党の本音だったのです。

 社会党は1946年2月24日、「民主主義政治の確立と社会主義経済の断行を明示」することを「方針」とした『憲法改正要綱』を公表し、社会主義の理念を憲法に謳うことを主張しました。左翼の人々の本音はこのようなものだったのです。

②55年体制の確立により、護憲と改憲が逆転

 しかし、この改憲と護憲の立場の逆転が、55年体制の確立によって起きたのです。もともと日本の保守政党は当分は憲法を改正するつもりはありませんでした。彼らは新憲法制定に直接携わった者たちだったので、その困難さを身をもって感じていました。そこでこんなに大変なことであれば、当面の間は憲法の改正などやりたくないと思っていたのです。

 ところが、1955年10月に左派社会党と右派社会党が統一し、「護憲と反日米安保」を旗印にして日本社会党が発足しました。そして翌11月に日本民主党と自由党が合同し、「憲法改正と自主憲法の制定」を党是に掲げる自由民主党が結成されました。このときから、憲法改正をめぐり自民党と社会党の対決姿勢が鮮明になったのです。このように、55年体制の確立をもって護憲と改憲が逆転するようになります。

③なぜ左翼勢力は憲法改正に反対するのか?

 ではなぜ、左翼勢力は憲法改正に反対しているのでしょうか? その第一の理由は、弱い日本であることが「革命」に好都合だからです。憲法を改正したら、強い日本になってしまいます。それは困るので、弱い日本に留めておくためには現行憲法の方が都合がよいのです。そして民主主義の徹底によって、「上部構造」を解体できるからいまの憲法は都合がよいということになります。つまり、左翼勢力は現行憲法を真に尊重し、護ろうとしているわけではなく、革命の前段階では都合がよいので「護憲」を叫ぶというのが、左翼の立場なのです。

④東京大学の小林直樹教授(憲法学)が指摘する矛盾

 左翼の護憲論議の矛盾については、東大で憲法学の教授をつとめた小林直樹氏が以下のように指摘しております。
「日本国憲法は、資本主義の私的自由を確認した点で、社会主義憲法ではない。(筆者注:憲法第29条に「財産権は、これを侵してはならない」とあるので、現行憲法は私有財産を保障しています。)(中略)それは社会主義への道にとって出発点として利用できても、この憲法のもとで、社会主義への移行を完了することができないのは当然であるといわなければならない。つまり、平和的変革の最後の局面では、ひとつの『飛躍』なしに社会主義体制に移行することはできない。別な言い方をすれば、この『移行』と同時に、現行憲法の制度的内容は大幅な『改正』を要することにならざるを得ないであろう」(『現代の眼』1962年6月号)

 日本共産党の本音は「二段階革命論」であると言われています。第一段階は民主主義革命であり、選挙における野党共闘で自民党政権を打倒することを目指します。それまでは「護憲」の立場をとるのです。そして、政権を取った後に第二段階として社会主義的変革を行い、日本を社会主義国家にしようとしているのです。このときには絶対に憲法改正が必要となります。

 したがって、左翼の本音は「改憲」であるわけですが、いまは表向きの「護憲」を唱えているのです。

カテゴリー: 憲法改正について

憲法改正について08


 憲法改正が必要な7番目の理由は、日本国憲法には家族の尊重・保護の規定がないということです。

7.日本国憲法には家族の尊重・保護の規定がない

①憲法第24条は個人主義に立脚し、家族の解体を含意している

 これは特に憲法第24条に関して言えることです。現在の憲法第24条は徹底的な個人主義に立脚しており、家族の解体を含意しているのではないかということです。

 有名な日本国憲法第24条は以下のようになっています。
「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
2 配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。」

 家族に関する法律はすべて個人の尊厳に基づいて制定されなければならないと言っているわけですから、この条文の目的は日本の家父長的な家族制度を否定することにあったと言えるのです。東京大学で憲法学の講座を担当していた樋口陽一教授は、「家族の問題について『個人の尊厳』をつきつめていくと、憲法第24条は、・・・家族解体の論理をも含意したものとして意味づけられるであろう」と述べています。(樋口陽一『国法学 人権原論』有斐閣、2004年)すなわち、憲法で「個人の尊厳」ばかりを徹底的に強調すれば、最終的には家族を解体させる方向にむかうのではないかということです。

②憲法第24条の原案起草者ベアテ・シロタの動機

 憲法第24条がそもそもどのようにして作られたのかというと、当時22歳だった日本滞在暦のあるベアテ・シロタという若い女性が民生局の中にいて、彼女がこの24条を起草したと言われております。

憲法改正について図⑬

 もともとGHQが作成した憲法第24条の原案には、ベアテ・シロタさんによって、家族と婚姻に関する詳細な条項が設けられていました。その中には憲法というより民法の方が相応しいと思われるような家族と婚姻に関する非常に細かい条項が入っていました。それらの大部分が最終的に削られて現在の24条になり、婚姻は両性の合意のみ、個人の尊厳、両性の本質的平等という部分だけが残ったのです。

 ベアテ・シロタさんがこの24条を起草した目的は、日本の家父長的な家族制度を変えるためでした。彼女は自分自身の経験から、日本人は家族生活において男性中心であること、結婚は親に強制されていること、養子縁組はもっぱら親の意思によって決められていること、長子のみに相続権があることなどを知り、憲法で詳細に書き込む必要がある、なぜならば、民法にまかせておいては、結局、男性の手によってつくられ、男性優位の法律になるだろうと考えたのです。こういう発想に基づく日本国憲法には「家族の尊重」という文言がなく、むしろそれを解体して個人主義に向かわせる方向性を持っていると言えます。

③国際的には家族は「社会の自然的、基礎的単位」である

 しかし、国際的には家族は「社会の自然的、基礎的単位」であるということは広く認められています。その根拠には以下のようなものがあります。
・世界人権宣言(1948年) 第16条3項:「家族は社会の自然的かつ基礎的な単位であって、社会および国の保護を受ける権利を有する」
・国際人権規約(自由権規約、1966年)第23条1項:同様の記述
・国際人権規約(社会権規約、1966年)第10条1項:家族に対してできる限り広範な保護および援助が与えられるべきであると規定

 以下の国々の憲法にも家族条項があります。
・イタリア憲法(1947年)第29条
・アイルランド憲法(1937年)第41条1項
・フィリピン憲法(1987年)第2条12節、第15条1節・2節

 そして1990年以降に制定された105カ国の憲法中、88カ国(83.2%)に家族保護条項が設定されているのです。

④自民党の憲法改正案(2012年4月27日)には家族条項があった

 実は自民党が野党時代に作った憲法改正案には家族条項がありました。その文面は以下のようになっています。
「憲法改正案24条
家族は、社会の自然かつ基礎的な単位として、尊重される。家族は、互いに助け合わなければならない。
2 婚姻は、両性の合意に基づいて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
3 家族、扶養、後見、婚姻及び離婚、財産権、相続並びに親族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。」

 これはいまの憲法第24条の冒頭に家族を尊重する旨の条文を入れたものです。この文言は国際的な人権規約の規定をほぼ踏襲していますので、その点は良いと思うのですが、家族を尊重するだけであり、家族が「社会および国の保護を受ける権利」が記載されておりません。ですからそれも書き加えた方がよいだろうと思います。

 さらに、野党時代に作った憲法改正案にはこの「家族条項」が入っていたにもかかわらず、現在自民党が推し進めている憲法改正案の優先事項の中には、この「家族条項」は入っていません。私たちの思想・考え方からすれば、これを優先事項に入れるべきだということになるでしょう。

 以上が、憲法改正が必要な七つのポイントということになります。

カテゴリー: 憲法改正について

憲法改正について07


 憲法改正が必要な6番目の理由は、日本国憲法には緊急事態条項が存在しないということです。

①緊急事態条項の必要性を痛切に感じる時代になった

 いま私たちが生きている時代は、緊急事態条項の必要性を痛切に感じる時代になりました。その理由は何と言っても、新型コロナウィルスのパンデミックを経験したからです。この世界的な危機に対して日本は、「新型インフルエンザ等対策特別措置法」の改正によって対応しました。これを法的根拠として首相が緊急事態宣言を発出したのですが、憲法の根拠がなかったのです。ですから首相の宣言に基づき、都道府県知事は外出自粛、学校の休校、行事の制限、予防接種実施への協力、医療提供体制の確保などを要請できるのですが、一般国民に対してなせるのは要請・指示であり、強制力はありませんでした。

憲法改正について図⑫

 ですから諸外国のロックダウンに比べ、日本政府ができることは非常に限られていたのです。これは憲法の中に緊急事態条項がないことが原因です。コロナ・パンデミックのほかにも、中国による台湾侵攻の可能性が高まってきて、「台湾有事=日本の有事」などと言われるようになりました。そしてロシアによるウクライナ侵攻によって、他国による侵略は実際に起こり得るのだ、緊急事態というのは起こり得ることなんだと知ったのです。こうした現象を通して、緊急事態になれば平時の法では対応できないことに対する国民の理解が深まったのです。

②世界のほとんどの国の憲法には緊急事態条項がある。

 外部からの武力攻撃、内乱、組織的なテロ、重大なサイバー攻撃、経済的な大恐慌、大規模な自然災害、深刻な感染病など、平時の統治体制では対処できないような国家の非常時にあって、国家がその存立と国民の生命、安全を守るために、特別の緊急措置を講じることを、「国家緊急事態」といいます。

 このような意味での緊急事態条項は、西修氏の調査によれば、189の国家中、184の国家(97.4%)に見出すことができたということです。導入していない国を探す方が難しいくらいで、ノルウェー、ベルギー、オーストラリア、モナコ、日本の5カ国のみとなります。1990年以降に制定された成典化憲法では、緊急事態条項がないものは皆無でした。国際人権規約にも緊急事態の規定がありますので、緊急事態条項は世界的には常識ということになります。ですから、当然日本国憲法にあっても良いのです。

③憲法に緊急事態条項を設定することは立憲主義に反しない

 ところが、危機的な状況になった時に、緊急事態条項を設定する憲法改正の話をすると、「火事場泥棒的な議論だ」と批判されることがあります。しかし、ことの本質は、火事場において泥棒が起こらないように、火事の時のルールを決めようというのが緊急事態条項の意味なのです。

 カール・フリードリッヒという米国の著名な政治学者は、「緊急事態に対処できない国は、遅かれ早かれ、崩壊を余儀なくされる。」と述べました。

 コンラート・ヘッセというドイツの著名な憲法学者も以下のように述べています。
「憲法は平常時においてだけでなく、緊急事態および危機的状況においても真価を発揮すべきものである。憲法がそうした状況を克服するための何らの配慮もしていなければ、責任ある機関には、決定的瞬間において、憲法を無視する以外に取りうる手段は残っていないのである。」

 つまり、緊急事態にあって一番大切なことは、憲法に立脚して国の平和と国民の生命・安全を維持・回復することなのです。むしろ、憲法に設定しなければ、政府が独善的な行動をとる危険性があるのです。

④自民党素案における緊急事態条項

 自民党が作った憲法の素案には、この緊急事態条項が含まれています。2018年3月24日に発表した「条文イメージ(たたき台素案)」の中の、憲法第73条の2は以下のようになっています
「①大地震その他の異常かつ大規模な災害により、国会による法律の制定を待ついとまがないと認める特別の事情があるときは、内閣は、法律で定めるところにより、国民の生命、身体及び財産を保護するため、政令を制定することができる。

 ②内閣は、前項の政令を制定したときは、法律で定めるところにより、速やかに国会の承認を求めなければならない。」

 この自民党素案の特徴は、国家緊急事態として、「大規模災害」のみを対象としていることです。これは限定のしすぎであり、外部からの武力攻撃、テロ、深刻な感染症、重大なサイバー攻撃なども含めるべきであると思います。

カテゴリー: 憲法改正について

憲法改正について06


③憲法第9条はどのようにして制定されたのか?

 そもそも憲法第9条は、どのようにして制定されたのでしょうか? その制定過程を振り返ってみたいと思います。これは三段階からなっています。

 第1段階が「マッカーサー・ノート」と呼ばれるものです。これは1946年2月3日、マッカーサー元帥がGHQのなかで日本国憲法草案を作成するように命じるにあたって、これだけは入れるようにと指示したものであり、新憲法の肝に当たる部分です。全体が4項目からなり、その第2項目が戦争放棄に関するものでした。このマッカーサー・ノートの段階では以下のような文言でした。
「(1条)国の主権的権利としての戦争は、廃止する。日本は、紛争を解決するための手段としての戦争、および自己の安全を保持するための手段としてさえも、戦争を放棄する。日本は、その防衛と保護を、いまや世界を動かしつつある崇高な理想に委ねる
(2条)いかなる日本の陸海空軍も、決して認められず、またいかなる交戦権も、日本軍隊に対して決して与えられない」

 ですから、マッカーサー・ノートの段階では、自衛権すら否定し、自衛のための戦争も否定していたということです。マッカーサーの最大の関心事は、日本を二度と戦争ができない国にするために、一切の武装を放棄させることにあったのです。

 第2段階が、ケーディス大佐の修正です。マッカーサー・ノートを受け取った民政局次長のケーディス大佐が、「自己の安全を保持するための手段としての戦争さえも」の部分を削除したのです。その理由は、「どの国も自衛の権利をもっており、それをも放棄する規定を入れるのは非現実的だと思ったから」ということです。これは1984年11月に西修氏がケーディス大佐本人にインタビューして分かったことです。ケーディス大佐の修正によって条文が以下のように変わりました。
「(1条)国権の発動たる戦争は、廃止する。武力による威嚇または武力の行使は、多国間との紛争を解決する手段としては、永久に放棄する。
(2条)陸軍、海軍、空軍その他の戦力は、決して認められることはなく、また交戦権も、国家に対して与えられることはない」

 これによって自衛のための戦争までも否定していた文言がなくなったので、自衛のための戦争であれば認められると読めるようになったのです。

 第3段階が「芦田修正」と呼ばれるものです。これは帝国議会の衆議院帝国憲法改正案委員小委員会で委員長を務めた芦田均が加えた修正のことです。芦田均は日本の首相まで務めた人です。芦田修正によって、文言は以下のように変わります。
「(1項)国権の発動たる戦争と、武力による威嚇または武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
(2項)前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。」

 これは基本的に1項と2項の内容はアメリカの言うとおりそのままにして、それぞれ独立していた1項と2項の間に、「前項の目的を達するため」という語句を挿入することによって、両者を接続し結合させるという「技」を使ったということなのです。

 そうなると全体がどう読めるかというと、1項は国際紛争を解決するための手段としての戦争や武力行使を放棄しています。これは国際的には「侵略戦争をしませんよ」という意味になります。これに「前項の目的を達するため」という言葉をくっつけたことにより、2項はその目的のため、すなわち侵略戦争を目的とする戦力保持を否定しているのであって、自衛のための戦力であれば保持できると、ますます読むことができるように修正されたということなのです。

 ですから当時の日本の国会議員もそうとう頑張って、自衛権は認められると解釈できるような文言にするために、努力をしたのだということが分かります。

④憲法学者たちは自衛隊の合憲性をどう考えているのか?

 ところが、現代の憲法学者たちに自衛隊は合憲だと思うか、違憲だと思うかを尋ねると、以下のような結果になるのです。

憲法改正について図⑪

 これによれば、41%が違憲だと答え、22%が違憲の可能性があると答えています。自衛隊は合憲だと言い切った憲法学者は23%しかいません。このことから憲法学者は自衛隊が違憲だと考える傾向が非常に強く、国民の感覚からかけ離れていることが分かります。

⑤憲法9条改正に対する自民党の立場

 これはあまりにも申し訳ないじゃないかということで、自民党としてはまずは9条に自衛隊を明記することから憲法改正をしようじゃないかという意思表示をしたのです。以下は2018年3月25日に行われた自民党の党大会における安倍首相(当時)の発言です。
「結党以来の課題である憲法改正に取り組む時が来ました。4項目について議論を重ねてまいりました。もちろん第9条においても、改正案を取りまとめてまいります。わが国の独立を守り、平和を守り、国と国民を守る。そして自衛隊を明記し、この状況に終止符を打ち、そして違憲論争に終止符を打とうではありませんか。これこそが、私たち今を生きる政治家の、そして自民党の責務であります。」

 現在、自民党の憲法改正案は①自衛隊の明記、②緊急事態対応、③合区解消、④教育充実の4項目からなっており、「自衛隊の明記」が筆頭に上がっております。自衛隊の方々が国を守るために頑張っているにもかかわらず、「憲法違反の存在だ」などと言われ続けているのはあまりにも申し訳ない。この状況を変えるのは政治の責任であると安倍首相は強く決意をしていたことが分かります。

カテゴリー: 憲法改正について