「国境なき人権」のプレスリリースの日本語訳


 去る7月半ば、スイスのジュネーヴで開かれた国連人権理事会のセッションに
おいて、自由権規約人権委員会による日本の人権問題に関する審査が行われまし
た。同委員会に対しては、昨年7月に日本における統一教会信者に対する拉致監
禁・強制改宗の問題に関して、「国境なき人権」と日本の「被害者の会」の二つ
のNGOが報告書を提出して改善を求めていました。

 7月24日に、国連人権規約委員会による「最終報告書」がウェブ上で発表され、
その中で拉致監禁問題が指摘されました。このことは、国連の規約人権委員会が
正式に日本政府に対して新宗教信者の拉致監禁強制改宗問題に関して懸念を表明
し、さらにその問題を解決するための手段を講ずるよう求めたという意味である
ため、歴史的な一歩を刻んだと言えると思います。

 このプロセスに加わった「国境なき人権」より詳しいプレスリリースが出ていま
すので、その日本語訳全文を以下に転載します。

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日本

日本における強制改宗について国連自由権規約人権委員会は、日本が耳を塞ぎ続けている、と非難

HRWF (25.07.2014)   7月15・16日の両日、国連の自由権規約人権委員会第111会期は、日本の人権状況について審査を行った。これは日本に関する第6回目の定期審査だが、その中で「国境なき人権」(ブリュッセル)と「全国拉致強制改宗被害者の会」による詳細な報告書が提出され、宗教と信条の自由権と、強制改宗されない権利に関する問題が提起された。

 この審査中、委員会のドイツ人専門家Ms. Seibert-Fohrは、拉致問題と、彼女が言う「強制改宗」問題を取り上げた。同女史によれば委員会は、「統一教会」と「エホバの証人」の信者に対する拉致・強制棄教の複数の事例を承知しており、成人信者が家族の手で拉致され、6ヶ月もしくはそれ以上の期間監禁されたが、当該信者が「家族と一緒にいる」ことを理由に調査も警察の捜査も実施されなかった。民事の訴えも出されたが、同女史の知る限り、一度も差止請求が認められたためしがないという。女史は日本政府に対して、この状況を改善するため如何なる措置を取るつもりかと問いただした。

 日本政府は問題の所在を否定し、次のような答弁に終始した、「言及された事例については承知しておりません。報告書が受理されましたら、然るべく対処したいと思います。法務省は規則に従って人権問題を扱い、個々のケースについて調査が執り行われることになっており、それを厳正に実施いたします。」

 にもかかわらず、同委員会は7月24日付けの「最終報告書」の中で、「新宗教運動の回心者を棄教させるための、彼らに対する家族による拉致および強制的な監禁についての報告を憂慮して(2条、9条、18条、26条)」おり、日本政府は「全ての人が自ら選択する宗教又は信念を受け入れ又は有する自由を侵害するおそれのある強制を受けない権利を保障するための、有効な手段を講ずるよう」勧告した。

 日本当局は数十年間、拉致・監禁や物心両面の強制下で棄教を迫られた数多くの被害者の訴えに耳を貸さなかった。日本の警察も加害者が訴追されないように擁護し、類似の犯罪が繰り返されて、被害者の人権が侵害されるままにしてきたのである。

 2013年7月に「国境なき人権」は、「日本における棄教を目的とした拉致・監禁の問題 (ICCPRの7条、9条、12条、18条、23条、および26条の違反)」と題した報告書を、自由権規約人権委員会に送付したが、その狙いは、国家関係者以外の主体が新宗教運動への改宗者を拉致し、棄教に至るまで監禁していても、まったく罪に問われていない状態について、同委員会関係者に注意を喚起することだった。(報告書の内容は以下を参照) 
http://tbinternet.ohchr.org/_layouts/treatybodyexternal/Download.aspx?symbolno=INT%2FCCPR%2FNGO%2FJPN%2F15101&Lang=en

 その実態について、「全国拉致強制改宗被害者の会」は2013年6月30日付けで、詳細の報告を公表している。(下記を参照)
http://tbinternet.ohchr.org/Treaties/CCPR/Shared%20Documents/JPN/INT_CCPR_NGO_JPN_14826_E.pdf

 2013年11月14日、自由権規約人権委員会は日本政府への人権関連懸念事項のひとつとして、この問題を提起した。(以下を参照)
http://daccess-dds-ny.un.org/doc/UNDOC/GEN/G13/486/27/PDF/G1348627.pdf?OpenElement

 その第16項目には次のように記されている。「拉致・監禁・強制改宗や強制棄教の事例について、当局者による捜査・訴追が行われていない、との報告があるが、釈明を求めたい。」

 これに対して日本政府の回答では、そうした問題の所在をきっぱり否定し、「言及された事例については承知しておりません」と言明した。だが2014年1月28日には、日本人男性の後藤徹氏が、家族に拉致され12年間(1995年9月から2008年2月まで)も監禁され、宗旨替えした信仰を断念するよう暴力的に迫られたのだが、監禁実行者や強制改宗者に対する民事訴訟で勝訴した。東京地方裁判所は後藤氏の損害補償として、被告の後藤氏家族に対して総額483万円(約47、000ドル)の支払いを命じ、強制改宗屋の宮村峻には96万円(約9、400ドル)を連帯して支払うよう命じた。日本の一部マスコミは同判決について簡潔に報道した。 

 最近も拉致事例が複数発生していて、警察が適切な対応をしていないことを裏付けている。

 2013年7月に「国境なき人権」が自由権規約人権委員会に最初の報告書を提出して以来、「国境なき人権」には統一教会信者が拉致された新たな事例が三件伝えられ、二件は女性信者、一件は男性信者が被害者だ。その中の一人は、本稿執筆時点で監禁が継続されていると見られる。

 27歳の石橋正人氏は年始参りで帰省した際、両親に拉致されたと見られるが、その随分前から拉致のおそれを感じていた同氏は、いくつかの予防措置を講じていた。石橋氏は弁護士に自署・捺印した「救助要請」を託していたばかりか、2013年12月末に実家に帰省する際、GPS装置を携帯していた。そして2014年1月2日に同氏が携行していたGPS装置から、民間のセキュリティ会社に緊急信号が送信されたのだ。 

 強制監禁を受けた場合には救助してほしい、という石橋氏の明示的な要請に応じるぺく、「国境なき人権」は再三、警察当局に石橋氏の所在確認を求め、本人と直接に内々で連絡を取ってほしいと督促した。その理由は、同人が意に反して拘束されているか、救助を求めているかどうかを確認してほしいからだった。2014年2月18日、「国境なき人権」の代表ウィリー・フォトレ氏と、国際人権活動家のアーロン・ローズ氏は、統一教会の関連団体である天宙平和連合の日本支部で事務次長を務める魚谷俊輔氏を伴って千葉県警本部を訪ね、広報課の担当者に石橋正人氏の件を問いただした。この会見後、魚谷俊輔氏は千葉県警本部広報課の警官および香取警察署の警官らと五度、電話で会話をしている。

 統一教会は警察との会話の全てを文書化して、その写しを「国境なき人権」に提供した。警察関係者の発言内容は示唆深いもので、警察が行動をとろうとしない事情や、それを正当化する理由に関して、「国境なき人権」が人権委員会に提出した2013年7月の報告では触れ得なかった情報を提供してくれるものだった。(下記を参照)http://tbinternet.ohchr.org/_layouts/treatybodyexternal/Download.aspx
?symbolno=INT%2fCCPR%2fNGO%2fJPN%2f15101&Lang=en これらの中で、「不十分な警察の対応」の章、中でも「警察は石橋正人氏の強制監禁を認知しているが、心配はしていない」(pp. 9-10)という部分を参考にしてほしい。). 

 この内容を見れば、統一教会信者に対して拉致・監禁・強制棄教が日本で継続されたのは明らかだった。被害者と同じ信仰を持つ人たちは、警察の冷淡なあしらいと、妥当な措置を取らない態度に直面し続けてきたのだ。拉致された人にとって、警察が助けに来てくれる可能性は極めて少ないのだ。警察官自身が統一教会に露骨な差別的態度を持っているので、息子娘が教会から離れてほしい、という親たちの願望に同情するばかりか、親たちが拉致・監禁・強制棄教といった挙に出ることに相当の理解を示しているのだ。 



国連の人権委員会に追加された最近の報告

2014年6月、「国境なき人権」は人権委員会の関係者に宛てて、日本における強制棄教を目的とした拉致と監禁の問題に関する最近の重要な出来事についての情報を提出した。それは人権委員会による人権関連事案一覧中の質問書第16番(「宗教・信念・表現の自由」(18条及び19条)に対する日本政府回答への反論でもあった。その主旨となる「国境なき人権」の見解では、新宗教運動に属して拉致された信者の人権が、日本では十分保護されていない事実を当局者が認知していないことを示していた。(参照)
http://tbinternet.ohchr.org/Treaties/CCPR/Shared%20Documents/JPN/INT_CCPR_CSS_JPN_17429_E.docx

 「全国拉致強制改宗被害者の会」も、自由権規約人権委員会に対して日本政府が、如何なる問題もない、と回答したことについて、最新かつ詳細な回答を提出した。(参照)
http://tbinternet.ohchr.org/Treaties/CCPR/Shared%20Documents/JPN/INT_CCPR_CSS_JPN_17422_E.pdf).

 「国境なき人権」としては、国連の自由権規約人権委員会の「最終報告書」が、日本当局に強いメッセージを伝えてくれると信じている。すなわち、拉致・監禁・強制改宗の企ては人権侵害に当たるものであり、警察が適切な行動をとらず、犯罪の実行者が罪に問われないのは黙認できない、というメッセージだ。信仰を持つ者の権利が完全に間違いなく尊重されるために、日本政府は有効な措置を採るべきである。

(終わり)

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