世界の諸問題と統一運動シリーズ17


青少年の道徳性を育てる人格教育運動

 青少年の道徳性の低下は全世界共通の課題の一つですが、今回は学校教育の場でその回復を目指す「人格教育運動」について紹介します。

<人格教育運動の背景>

 日本では「道徳教育」が学校教育の中に位置づけられていますが、「人格教育」という言葉はあまり一般的ではありません。この言葉は、もともとアメリカで生まれた教育改革運動の一つである「Character Education」を日本語に訳したものです。したがって、人格教育を知るにはまずアメリカにおける教育の歴史と課題を理解しなければなりません。

 1990年代、アメリカはかつてないほどの経済的繁栄を謳歌していましたが、同時に道徳的危機が社会に蔓延し、それはとくに青少年において最も顕著でした。レーガン政権下でアメリカの教育長官を務めたウィリアム・ベネット氏は、1960年~90年の30年間でアメリカの社会傾向と文化指標がどのように変化したのかを一つの表にまとめました。

表1

「表1」のデータから読み取れることは、この30年間でアメリカは劇的に豊かになり、社会福祉に投じる資金も増大したにもかかわらず、同じ時期に国の質は劇的に悪化しているということです。何十億ドルもの膨大な資金が支出されたにもかかわらず、社会問題、とりわけ青少年問題に対しては、ほとんど効果を発揮しないことが証明されたのです

<道徳相対主義の登場>

 アメリカにおいて青少年の道徳性が低下したのは、1960年代以降の広範な文化的変化と、その新しい文化的環境に合うように道徳教育を改善しようとした一連の試みに起因するものです。アメリカの古典的な教育の目的は明快で、高潔な人格を養成することを重要視していました。古代ギリシアの四元徳(思慮深さ、正義、節制、不屈の精神)や、ベンジャミン・フランクリン(アメリカ合衆国独立期の作家、政治家)の13徳を教えることなどがその中心でした。

 しかし1960年代以降、ベトナム反戦運動やヒッピーたちの運動、そして「性革命」によって、アメリカ社会を覆っていた伝統的価値観が挑戦を受けるようになります。このとき若者たちは、権威や伝統的価値観に対して反抗しました。その中で登場したのが「道徳相対主義」です。これは簡単に言えば、「価値判断は個人の感情の表明に過ぎない。一人ひとり信じていることは、皆、等しく価値がある。各人は各自の信じる価値を表明し、価値を他者から押しつけられない権利がある」という考え方です。

<アメリカにおける教育学の変化>

 こうした文化の変化を受けて、アメリカの教員養成大学や大学の教育学部では、価値中立主義や道徳相対主義という制約の中で道徳教育を行う方法を模索した結果、「非指示的な方法」による道徳教育という新しい取り組みが行われました。これは子供たちに、自由で思慮に富んだ価値選択の能力を身に付けさせるというもので、教師は子供たちに価値について自分自身で選択するよう奨励するが、教師の側から明確な価値観を教えることを避けるという方法でした。

 しかし、未熟な子供たちが自ら賢明な選択をすることは難しく、多くの混乱を引き起こすと同時に、親の道徳的指導を軽視する傾向にあるという批判も受け、1990年代初頭までにほぼ放棄されるようになりました。こうした中で、ニューヨーク州立大学コートランド校教授のトーマス・リコーナ博士によって推進された運動が「人格教育運動」でした。リコーナ博士は、「人格教育とは、『徳』を意図的に教えることである」と定義し、相対主義に陥っていた当時のアメリカの教育界に新風を吹き込みました。ここでいう「徳」とは、賢明、正直、親切、勤勉、自己修養などのように、客観的に存在し、人間にとって善とされる特質であるとされています。

<統一運動の推進する人格教育>

 統一運動の人格教育は、子供たちに積極的に「徳」を教えるべきだという点でリコーナ博士の推進する運動と一致していますが、さらに一歩進んで、人生の三大目標を①成熟した人格、②愛ある関係と家庭、③社会への貢献(三大祝福の教育学的表現)として、これらの目標を達成するために「徳」を身につけなければならないと教えます。そして、人格の中核を「心情」であると捉え、心情の涵養こそが人格教育の基礎であるとしている点も大きな特徴です。

 世界的には、これまで『本当のわたしを探して』というシリーズの教科書を用いてアメリカ、カリブ海、オセアニア、アフリカの国々で人格教育運動を推進してきました。日本国内では教師を職業とする教会員や祝福二世が「教師原理研究会」(TARP)を結成し、毎年夏休みに合宿で研修をしながら、人格教育の理念に基づいた道徳教育のあり方を研究し、お互いに切磋琢磨しています。

 特に日本では、2015年に「道徳」の教科化が決定し、小学校は2018年度、中学校は2019年度から検定教科書を使った道徳教育が実施されることとなりました。改訂された学習指導要領には「家族愛」「先祖への想い」や「宗教心」に通じる内容が含まれており、道徳の授業の中で人格教育を行える環境が整ってきました。こうした地道な活動を通して、青少年の道徳性の回復に統一運動は貢献していくことでしょう。

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